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第二十三章:全ての始まり

511.ザーム共和国の禁域へ

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「だから言ったではありませんか! あたしはアックさまに忠告しましたのに!!」
「まだそうと決まったわけじゃないだろうし……」

 おれたちやイデアベルクの者たちを除けば、魔王やザームのことは同じ脅威。ましてジオラスとデミリス以外はAランク以下。一度脅威にさらされれば……。

「いいえ! そもそも魔王と手を組んでザームに攻めるなどと――!」

 ミルシェが興奮状態になるのも無理は無い。
 彼女はおれのため、国のため、仲間の……主にルティのために警戒を強めていた。

 それがここに来てレイウルムのジオラスが魔王らしき存在にやられたとなれば、微妙な協力関係にある魔王のことを、より疑うことになるのは必然だ。

「ミルシェさん、落ち着いてください~」
「あなたも呑気に構えてないで、あなたのアックさまを少しは怒るべきだわ!!」
「ほへぇぇぇ~……」

 ルティはミルシェに強く言えないし、シーニャはこういうことに関わっても来ない。
 そうなるとおれが何とか説得するしかなくなるが……。

 眠らせたとはいえ、ジオラスをここに置いて行くわけにもいかないし困ったものだ。

「あなたさまには、はっきりと示して頂かないと困りま――うっ!?」
「む?」

 おれへの怒りが収まらないミルシェだったが、突然彼女は麻痺状態に陥ったかのように静かになった。
 急に黙ってしまったことで心配したのか、ルティがミルシェに駆け寄ってみせた。
 
「ミルシェさん、これをゆっくりとお飲みくださぁい~」
「……」

 麻痺はともかく、回復系のドリンクを飲ませて落ち着かせているみたいだな。
 そう思っていたら、

「あ、ああぁぁぁ! あ、あなたは……アック様、あのあのあの!!」
「……ん? どうした?」
「ウニャ? ドワーフも女もどうしたのだ?」

 ルティも麻痺を喰らったかのように動きを止めてるな。
 一体何だ?

「――アック・イスティ。困るな……君の仲間を抑えてもらわなければ、僕としても自分を抑えきれなくなるじゃないか……」

 やっぱりこいつか。
 あまりにミルシェに敵対視されたことで頭に来たみたいだな。

「それは悪かったな。ところで、そこにいるのはおれの味方であるレイウルムの人間だ。襲ったのはお前じゃないよな?」
「言ったはずだ……バラルディアの敵はザームに染まった人間なのだと。レイウルムごときところに行くほど僕は暇じゃない。あぁ……でも、レイウルム……そうか、くくく……」
「……何がおかしい? レイウルムに何かあるのか?」

 地下都市から遺跡群に行けるし、あの場所に得体の知れない何かが隠されていても不思議じゃない。

「何があったのかは君のドワーフにでも聞くといい。ここから先はザームの禁域になる。今はまだ、君の力だけでは苦労するだろうから色々努力したまえ! それじゃあ失礼するよ!」

 くそっ、好き勝手言って自由に動く奴め。

「魔王は何だったのだ、アック?」
「シーニャから見ても特に感じなかったかい?」
「ウ~ニャ」
「うん、そうだよな……」

 シーニャの場合は魔王を恐れてもいないし、認められちゃってるからな。
 しかしミルシェとルティはやられっぱなしだから仕方が無いかもしれない。

 少しして、ようやくミルシェが落ち着いた。
 
「ふぅー……それで、あの男は何と?」
「ここから先はザームの禁域らしい。つまり、ザームの支配下にあるってことだな。それと、ジオラスとレイウルムに興味はない……と」
「つくづく呆れますわね。まぁいいですわ。そうすると、この人はどうされるおつもりですか?」

 このままここに放置するのは危険だし、そうかといって連れて行くのはもっと危険だな。
 ここからレイウルムまでさほど遠くないが……。

「アック様。ジオラスさんが眠る前に言ってましたけど、この先にアクセリナさんたちがいるんじゃないですか?」
「ザームに連れて行かれたかも分からないし、どこにいるのかは分からないんだぞ?」

 この通路のように分かれ道も無く、魔物の遭遇が無ければ探しようがあるが。

「それでしたら、アック様のサーチスキルで探すのはどうでしょう?」

 サーチスキル……あれに反応するのは、ある程度の強さを備えた者じゃないと厳しい。デミリスとアクセリナが以前よりも強くなっていればあるいは。

「アックさま。ルティの言うことも聞かないようでは話になりませんわ」
「……う、いや。やらないとは言って無いぞ?」
「でしたらお早く!」

 完全に怒らせちゃってるな。

「女はせっかちでアックのことが嫌いなのだ?」
「お、女……あたしのことはミルシェと呼んでもらいたいのだけれど」
「嫌なのだ」
「ぬぬ……で、でしたら、オリカ……でいいから」
「それならいいのだ」
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