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第二十三章:全ての始まり
507.パレージ峡谷の崖下へ
しおりを挟む「でやあぁぁぁぁぁぁ!!」
おれの心配をよそにルティの拳によって、トロール族が堅固な鎧ごと粉砕されていくのが見える。魔導士タイプなどお構いなしに、ズゥゥン。と音をさせ次々と巨体が倒れて行く。
「特訓の成果は何も連携だけではありませんのよ?」
「そのようだな……破壊力に加えて素早さも上がってるとは驚きだ」
「虎娘ばかり気にされて、一番身近な娘を見ていなかった証拠ですわね」
「うっ……いや……」
ミルシェの言うことはもっともだった。
シーニャはおれと"絆の印"をつけてから格段に強くなったが、ルティとはしばらく行動を共にすることが無かった。それだけに、しばらく離れていたルティの強さがどうだったのか分からなくなっていたわけだが。
「まあ、アックさまの前では泣いたりすることが多かったですし、無理もありませんけれど」
「そ、そうなんだよな~……」
「ですので、いっぱい褒めてやって頂けます?」
「そうするよ」
ミルシェのお叱りを受けている間にトロール族の群れはほぼいなくなっていた。腕をぐるぐると回しながら、ルティだけが機嫌よく戻って来る。
「はふぅ~……いい汗かいてきましたっ!」
「ルティが全滅させたのか?」
「見た目は硬そうでしたけど、わたしが殴っただけであっさりと倒れていきまして! 案外弱い敵だったんでしょうか?」
間違いなくルティの破壊力が上がったんだろうな……。それに加えてミルシェとの連携技が使えるとなると、あまり泣かせたり怒らせたりしない方が良さそうだ。
「そ、そうだな。そうだと思うぞ」
「……コホン。ルティに何か言うことがあるのでは?」
うっ?
ミルシェの気配がやばいな。ここは素直に……。
「あー……ルティ! よくやったぞ!」
「やったぁ~! えへへ……アック様に褒められましたっ! もっともっと頑張りますです!!」
「お、おぉ」
今の時点で過剰に褒めるのは控えたが、かなり喜んでくれたみたいだな。
ミルシェが言った通りだった。
「言葉だけではなく、次は行動に。もちろん、あたしも褒められたいですわ」
「努力する……」
そういえばシーニャはどこまで行ったんだろうか。手前にいた群れは全て倒され敵の姿はほぼ見えないが、延々と続く土塁の先の方を見ると視界がぼやけている。
かなり先の方まで行ったと見るべきか。
「アック様! 向こう側がはっきりと見えなかったですけど、水の流れる音が聞こえたです。シーニャはそこにいるんじゃないでしょうか?」
水の音か。
視界がぼやけているように見えるのはそのせいか。
「アックさま、さっさと行きませんか? 虎娘がいくら強くても案外苦戦しているかもしれないですわよ?」
「シーニャが苦戦か……。何とも言えないけど急ぐか」
「アック様、わたしが先導しますですっ! こっちです、こっち!」
分かれ道があるでもなく、トロール族の亡骸がそこかしこに転がっているだけで迷う道でも無い。ここから見えているのは、視界のはっきりしない場所が前方に広がっているだけだ。
とはいえ、またミルシェに怒られそうなので素直に案内されておく。
「じゃあ頼む」
「はいっっ!!」
おれが素直に頼んだことでルティは勢いよく前進を始めた。
「……これでいいんだよな? ミルシェ」
「ええ。あの子はあなたさまの望むままに動くことを良しとしていますわ。ですので、なるべく任せておいた方がよろしいかと」
「なるほど」
ルティ先行で進んだ先にたどり着くと、急な崖から成る幅の狭い谷が見えている。
近くに刺さった道しるべの板には手書きで、【パレージ峡谷】とあった。
以前は平坦な土地が続き、延々とした砂地が続きながら海に囲まれた半島だったが、ザームの奴らの仕業なのかレイウルム半島の地形がかなり変わってしまったようだ。
「水の音は崖の下を流れる川の音か」
「それだけでなく水車のようなものも見えますわね。おそらくここを進むには、下りて行くしかないのでは?」
「パレージ峡谷とあったが、勝手に地形を変えて新たに作り出したってことなのか……」
「アックさまは人のこと言えないのでは?」
「…………」
全く、ミルシェはいちいち突っ込んで来るな。
それはそうとルティはどこまで行ったんだ?
「アック様~!! 下です下~!」
そう思っていたら崖下から声が届いた。
「何だ、崖下にまで進んでいたのか。しかしどうやって行くんだ……」
「アックさま、あれを! 人の手で作られた階段が見えますわ」
「やれやれだな」
シーニャも下へ行ってしまったということだろうか。彼女の強さなら心配は要らないが、あまり先走って行かれてもそれはそれで気になってしまう。
「アック様~!! シーニャを見つけましたっっ! 早く降りて来てください~!」
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