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第二十三章:全ての始まり
506.進撃開始!
しおりを挟むフィーサの言葉通り、レイウルム半島の森に行くとおれたちを待っていた魔王の姿があった。
レイウルムの森は砂地が広がる中に唯一存在する場所だ。
かつてここでルティの負傷を治したり、水棲のラーナと出会った湖があった思い出の場所でもある。
「……アック・イスティくん。その剣を見るに、整えて来たようだね」
「まぁな」
魔王はおれたちのパーティーに入ったわけではなく、あくまで目的の為に同行しているに過ぎない。だがこの男には永久強化はもちろん、フィーサが覚醒をするというきっかけを作らせた借りがある。
お互いに手助けなど無用だが、ザームの傭兵や魔術師といった純粋な人間相手には本領を発揮するはずだ。全ての人間が対象とは限らないとはいえ、こちらとしても存分にやれる。
ルティたちは後方を歩かせて周辺の景色を眺めさせている状況だ。精霊竜アヴィオルは遥か上空に待機させながら、いつでもルティの元に帰還させられる準備をさせた。
ミシックとなったフィーサは今は眠らせた状態だ。
魔王曰く、
「そろそろ始まるねぇ。僕は勝手に動くけど、アックくんは神剣とともに休んでおくといい。どうせ数に任せた者どもしか出て来ないだろうからね」
「魔法戦闘になることが無いからか?」
「人格のある魔法剣よりも意思疎通の出来る魔剣にしておく方が、君の負担が減るはずさ。覚醒したての神剣は隠し玉として使うべきだよ」
――という魔王の言葉を聞き、フィーサを眠らせている。今は魔剣ルストが使える状態だが、使うまでも無い戦闘になるはず。
森林を難なく抜けしばらく歩くと、以前砦があった場所に何層にも築かれた土塁が見えた。
砦は以前壊しているので跡形も無いが……。
「おやおや、人間じゃない奴を召喚してるようだねぇ……」
「……何が見えている?」
「人間の傭兵かと思っていたのに残念なことだよ。しばらく僕の出番は無いかな……そういうわけで、僕は手を出さない。アックくんが勝手に楽しむといい」
おれのサーチスキルが微妙な状態になっている中、魔王だけが敵を察知出来た。だがそれをはっきりと言わず、魔王はおれたちの前から姿を消しどこかにいなくなってしまった。
「ちっ、勝手な奴だ」
しかしそれが魔王との盟約である以上、奴に命令といったことは一切出来ない。ザームとの戦いはあくまでもおれたちの問題。そういう意味で余計なことをしてもらわなくても問題無い。
「いいじゃありませんか。魔王と行動するのは好きじゃありませんし、かえって邪魔でしたわ」
「まぁ、それはな……」
「それにどんな敵だろうと片付けることに変わりないのでしょう?」
「ああ」
ミルシェは魔王を疑りつつ、共闘することを拒んでいる。水棲怪物だった時も魔王という存在と交わることは無かったらしいので、そのせいもあるかもしれない。
「ウニャ! アック、シーニャが先に突っ込むのだ!!」
シーニャは絶対的な自信と強さが備わった。
それもあってか、敵がどういう存在なのか知らずに駆けだした。
どのみちすぐに始まることもあり、彼女を止めることはせずに突っ込ませた。
「ほえぇぇ!? わ、わたしも行った方がいいですか?」
「このまま全員で突っ込んだ時に敵が残ってたら戦ってもいいと思うぞ」
「は、はいいい~」
――直後、複数の巨体の獣人が目の前に姿を現した。
シーニャは手前に見える巨体には攻撃をしておらず、奥の方にいる獣人と戦闘を始めたようだ。
「見たことが無い獣人のような気がするが……」
巨体でありながらも堅固な鎧を着込み、人間が持つ武器とは比べ物にならない巨大な斧などを手にしているのが見える。
全て近接物理をして来る個体だけでなく、中には魔導士が着込むローブのような獣人も。
「アックさま。あれはトロール族ですわ」
「あんなにでかいのか……」
「動きは鈍いですから恐れる心配など無用ですわよ」
恐れてはいないが、人間の傭兵かとばかり思っていたから意表を突かれた感じだ。
「あの鎧は破壊出来るのか?」
「それでしたら――」
――と思っていたら、ルティの背中が見えた。
シーニャに張り合いつつ、ルティの破壊力が発揮しそうな戦いになりそうだ。
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