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第二十三章:全ての始まり
501.魔王との盟約
しおりを挟む幻霧の村の転移ゲートを使い、イデアベルクに戻ってから数日が経つ。
戻った直後は手荒い出迎えを受けて大変な目に遭ったが、今はすっかりと静まり返りひとまずの休息を取っている。
ルティとシーニャは同じベッドで眠り、何故か便乗してサンフィアも部屋にいるものの、特に問題になっていないのでそのままにしている状態だ。
おれが帰って来た直後は魔王からの教えを元に、ほぼ破られない永久強化を国全体に施した。魔力を持たない者には見えないものだったが、多くの人間たちはおれが何かをしたというだけで安心したらしく騒ぎになることは無かった。
ウルティモやシャトン、アヴィオル、エルフといった種族たちと、ルーヴ率いる白狼騎士団。彼らはおれからの"声"がかかるその時までいつも通りの動きをしている。
そんな彼らとは距離を置いているのが、
「アック・イスティくん。全ての準備は整ったようだねぇ?」
魔王であるスフィーダだ。
この男に教わったこともあるとはいえ、どこまで信じていいものか。
「まぁな」
「……何か言いたげだけど、他ならぬ君の言葉だ。聞いてあげようじゃないか!」
部屋で眠る彼女たちから離れ外を歩いていると、スフィーダはすぐ近くにいた。辺りはすっかりと寝静まり、まるで時間でも止められたかのように無音状態だ。
そんな状態に魔王であるスフィーダが立っているという時点で、何かしたとしか思えないわけだが。
「お前の魔王としての力。おれに構わず使えるんじゃないのか?」
「何だ、そのことかい?」
「ザーム共和国の人間を滅ぼすのがお前の望みだったよな? 何でおれの元からいなくなろうとしないんだ?」
おれの支配下にあるとはいえ氷雪都市を焼け野原に出来る奴だ。おれと行動をともにしなくても、滅ぼすという目的くらいは達成出来そうなものだが……。
「簡単なことさ。君に出来ても、魔王の力だけでは出来ないことがあるからさ。人間を滅ぼすことなどたやすいことだ」
何だ、やはりそうじゃないか。
「だが……そうじゃない存在には介入しないし、出来ない決まりがあるのだよ」
「それはイルジナという薬師のことを言ってるのか?」
「そうとも言うし、そうで無いとも言える。アレのことは裏切りの時空魔道士が詳しい。奴に聞く方がいいんじゃないかな?」
「……なるほど」
ウルティモは魔王側の存在だったが、おれについてくれたってことだよな。そしてイルジナのことは彼が知っているというわけか。
「それともう一つ。僕は滅ぼす力しか備えていない」
「永久強化はどうなんだ? それに今までの小細工はどう説明する?」
知識として教わったが、今までの魔王の小細工は別な力が働いているはず。
「小細工ごときに大した力は使っていないさ。あいにく僕は君のようにあれこれ出来る器用さは備わってないのでね。……ザーム共和国に行くにしてもね」
「…………」
ザーム共和国の人間を滅ぼすことについても文句を言いたいところだが……。
おそらく滅ぼさずに救うという考えには至らないだろうな。
「君が気になっている"滅ぼし"については、イデアベルクと魔王の間の盟約とさせてもらうよ」
「盟約?」
「僕はバラルディア王国を滅ぼす原因となった人間を滅ぼす。それが望みさ。それ以外の人間は好きにするといい」
聞く限りだと、滅ぼした子孫か生き残りがザームにいるように聞こえる。
それ以外の人間は手を出さないという約束ってわけか。
「さて、僕もそろそろ眠らせてもらうよ」
「魔王でも眠るんだな」
「ハハハハ! 面白いねえ、君は。そんな君にとっておきを教えておこう」
「まだ何かあるのか?」
いまいち信用出来ないが、まだ何か得るものがあるなら聞いておく。
「君には魔剣だけでなくもう一本の剣があるだろう?」
「フィーサか」
「アレも使うべきだと思うよ。アレは神どもが趣味で創ったアーティファクト。それがガチャによって君の元に来た。その意味でもアレをもっと使うのが賢い選択といえるだろう」
古代の剣として現れた彼女が神の遺物……。
魔王が言うということは潜在的な強さがあるということか。
おれが知らないことを知らせてくるとは意外だったな。そういうことなら朝にでもフィーサに声をかけておくか。
スフィーダがいなくなり部屋に戻ろうとすると、
「……アックさま、少しよろしいかしら?」
ミルシェが部屋の前で待っていた。
「ミルシェ? 何か問題でも?」
「あの魔王なる男……本当に連れて行ってよろしいのですか? それに全て終えた後も気になりますわ」
盟約のことは伏せておくとして、
「……承知してるよ。とにかくまずはザーム共和国。それからでも大丈夫じゃないかな?」
「あなたさまがそう言うなら何も言いませんけれど、くれぐれもルティを悲しませぬようお願いしますわね」
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