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第二十二章:果ての王

499.ルティ&ミルシェ極める 後編

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「フオォォォォ……!! せーの! 《タァァクゥゥティィィカァァァル》」

 具体的な技名は無さそうだが、ルティの重い一撃必殺といったところか。このまま受けてやってもいいが、仮にもシーニャの体を表しているし負けてやるわけにはいかないな。

 ルティはおれの背後にいる。
 そして繰り出そうとしている拳に反動をつけ、
 
「ヌオオオ!! いっきますよぉぉぉ!」
「……ドワーフの拳、効かない。いつでも来い。全部受ける……ウウゥ!」

 ワータイガーとして出て来る言葉からは、絶対に揺るがない力と意思が感じられる。そのすぐ後になるが、おそらくルティが放った必殺の拳がシーニャの背中に命中。

 僅かながら、ほんの少しだけ背中が前の方に押された感触があった。これ自体は予想通りだ。
 だが一歩だけ足を前に出した瞬間、

「ルティだけが攻撃の主役だと思ったら、それは間違いですわよ! はぁぁぁー!!」

 本命はミルシェからの正面攻撃だった。
 属性を見るに水属性攻撃、それも毒や麻痺を含めた特大の水塊を展開済みだったようだ。

「ウガッ……!?」

 これは――全て受けるしか無いな。
 ――と同時に、背中からルティの声が耳に響いて来る。

 正面からの水属性と、背後からの近接物理の連携攻撃ってやつだな。
 ちっ、仕方ない。ワータイガーであるシーニャの姿を強制的に消しておれが全て受けるしかない。

 そう思っていたら、

「アックさん、どうぞご自分の判断でお戻りを。そして受け止めてやってくださいね」
「…………そうさせてもらいますよ」

 全く……。
 結局最後はおれ自身が彼女たちの"強さ"を確かめることになるわけか。

 おれの姿をしていてはミルシェはともかく、ルティは本気を出して来ないし仕方が無いけど。

「喰らいなさい! そして後にも引けないあなたは、敗北を知ることになるのです!」
「ほああぁぁぁぁぁ……! 行きますよぉぉぉぉ!」

 連携後の同時攻撃を繰り出して来るか。
 この際だからバフを解除して受けておくとする。背中には闇、正面には光の壁を展開しとく。

「《アシッド・アビスショットォォォ》!!」

 ルティの攻撃は属性要らずの重い一撃、ミルシェからは弱体混じりの水属性攻撃。
 おれは防御主体の態勢のままその場に留まり、

 ガガガガッ、とした音とともに眼前の床めがけて響き渡る音に気付く。
 音に気を取られていたその時だ。

 おれはルティから繰り出されていた蹴りにすくい上げられ、知らぬ間に空中に飛ばされていた。このまま無防備に地面に叩きつけられれば、さすがに多少のダメージを負うことは避けられない――

 ――のだが、ルティたちの力を思い知るだけで十分なので、ダメージを味わってから懲らしめてやることにする。

「……っ! これはなかなか……」

 なるほど。
 連携攻撃を選んだのはそういうことか。

 対象の敵に命中させることで、確実にダメージを負わせられるってわけだな。
 この"痛み"を受けただけでも彼女たちの本気度が分かったしそろそろ反撃しておくか。

「ええぇぇ!? ミルシェさぁん、何だかおそろしい気配を感じますです!!」
「――分かっているわ! この気配は虎娘じゃなく、もっとおそろしい何かに違いないわ……!」

 本来この技はイデアベルクを強化するものだが……。
 それを攻撃に転じて2人に浴びせれば――

「きゃぁぁぁっ!? ど、どういうことなの? 体が勝手に浮いて自由が利かないなんて!」
「ひぇぇぇぇ……ミルシェさん、ミルシェさんぁぁぁん!! 地面が遠ざかって行きますです~」

 風属性で2人を空に浮かし、手足を動かせないように部分的な"テラー"をかけてやった。
 恐怖を感じつつ、全身はもれなく石化するような感じを受けるはずだ。

 さて、そろそろ――

「その辺にしてあげてはどうですか?」

 声をともに、霧の中からリリーナさんが現れた。
 案外すぐ近くにひそんでいたらしい。

「大ダメージを負わせなくてもよろしいので?」
「アックさん。それをルティシアにしてしまうのですか? これはあくまで強化訓練です。その身をもって強さを感じただけで満足したのでは?」
「……するわけがないことくらい、分かっているはずですが?」
「本当に意地悪ですね、アックさんは」

 ルティとミルシェからの"痛み"は理解出来た。
 これならザーム共和国に行っても心配は無いだろう。

「それで、彼女たちをこのまま下ろせばいいんですか?」
「ええ。存分に抱きしめてあげてください。もちろん、ミルシェさまもですよ?」
「そうさせて頂きますよ」
「では私はお先に。彼女たちを喜ばしたら、長のところへお越しください」

 リリーナさんが離れた途端、空間を覆っていた幻霧が一瞬にして晴れた。
 そして、

「ルティ! ミルシェ!! 今すぐ下ろしてやるから、大人しく待っててくれよ?」

 空中に浮いたままの2人は恐怖で体を硬直させている。
 ちょっと厳しくし過ぎたな……。

「えっ……? ま、まさかまさか、アアアア……アック様っ!?」
「……やはり意地悪な真似をすると思いましたわ」
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