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第二十二章:果ての王

489.魔王と人間 後編

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「どうやら剣の実力については図星のようだけど、アック・イスティの本気を見たいことだし、本気を出してあげるよ。君と魔剣にやる気があるうちにね」

 そう言うと、魔王スフィーダはそれまで見せなかった闇の気配を全身に宿わせ、手にする剣とともに暗黒の力を高めだした。

 その途端、魔剣ルストを握る自分の手から腕にかけて、瞬間的に硬直状態になったような感覚を覚えた。痺れは全く感じないものの、石化にでもされたくらい腕が重い。

「剣を手にした魔王の本気か。そうこなくちゃな!」
「――ククッ」

 魔王の目つき、気配、そして一瞬でおれの懐に突っ込んで来た動き。奴の変わりようには、ゾクッとした悪寒が走った。

 動き自体は決して追い付けないものでは無く、奴の剣先が捉える前にルストのつかで防ぐことが出来た。すぐさま反撃しようとしたが奴はおれの前からすでに離れていた。

 ここで様子見しても意味が無い。要は奴に意表を突けばいい――という考えのまま、スキルを発揮させながら奴が立っている所に向かって突進。

 あくまで前傾姿勢を崩さず、低く構えながら奴の胴体目がけて突っ込んだ。

 初撃は火力に頼らず、付与した属性を派生させ多連撃で攻撃。命中し手ごたえがあったことで、ギリィッ、とした軋む音が耳に届く。

「これでも弱いとでも言うつもりか?」
「……いいね、その調子だよ。クククッ、やはり君は面白い……弱いなりに工夫をする攻撃は実に面白い」

 おれの魔剣はリーチに優れ、攻撃発生の早い連続した多撃が可能だ。近接攻撃中心になるが、短、中距離での戦いであれば、大振りをしなくても十分通用する。

 構えをするのは、そこから派生する攻撃を駆使して変則的な攻めを展開するのが狙い。魔剣自体基本攻撃力があるだけに、一振りで命中すれば敵によっては致命傷を負わせられる。

 だが魔剣ルストはフィーサと違って、エンチャントによる魔法を展開することが出来ない。魔法属性はあくまでおれの力。後は魔剣本来の力で強気に出れるだけになる。

「少し本気を見せるとかほざいていたが、お前も剣を使うのは得意じゃないんだろ?」

 ――そう言った直後。
 全身に備わっているおれの半永久的なバフが、突然無くなった感じがあった。

 奴の攻撃を受けていない。そう思っていたのに、

「……クッ……クククッ! 気付いてないようだね、アック・イスティ。僕の剣はすでに君のバフを切っている。それに気づかず突っ込んで来たとしたら、ますます面白いことになる……」

 闇まみれの気配に紛れ、闇にまとわれた奴の剣先がわずかながらかすっていたようだ。バフのみを切られただけとはいえ、おれ自身に当たっていたらどうなっていたか見当もつかない。

「ヒャハハハハハ! 僕の闇黒剣に触れたら最後、君の全身には凄まじい衝撃が走るだろう。やはり魔剣に助けられている君の実力など、僕には脅威にもならないというわけだ!」
「……そうだな、剣の実力脅威にはならないかもな。だが――」
「――ヌッ!? バ、バカな……いつの間に氷と火炎を――」

 奴の油断のおかげもあってか、氷属性が見事に命中し奴の両足が氷の塊と化す。同時に、魔剣とは別に展開していた炎属性で、奴の足は氷の中で業火の如く燃え続けている。

「アック・イスティお得意の炎属性と氷属性か……ハハハハ。これは参ったね」

 認めたくはないが、やはりおれの力の大半は属性攻撃。そして魔剣ルストによる属性否定の攻撃。剣自体の基本攻撃力は確かに大したことは無い。

 だがこいつルストが拒む魔法属性をあえて芯の部分である剣背けんぱいにぶつけ、一振りの最中に弾かせることで、敵は気付かずに弾かれた属性でダメージを負う。

 気付くまでやや時間を要するが、気付いたと同時に属性次第では完全に動きを封じることが可能だ。

「お前の実力の方が確かに上だった。剣だけの勝負ならおれの負けだ」
「……あぁ~魔法も使っていいと言ったんだったね。やはり組み合わせを使われるとそうなったわけか」
「お前にとってはおまけ程度でも、おれの魔法属性はそれを上回る。純粋な剣の戦いに反しているけど、おれの勝ちってことで問題無いよな?」

 魔剣だろうと神剣フィーサを使おうと、おれの実力は大したことが無い。しかし属性を付与、もしくは組み合わせることで、敵の油断を誘ってダメージを負わせることが出来る。

 つまり、

「人間である君の魔力と属性は、僕を遥かに上回っている。剣の実力が劣る代わりにね……いやぁ、参ったね。これもあのドワーフのおかげかい?」
「力が備わった大半はルティのおかげだ。剣は元々握ったことも無かったからな。言い訳はしない」
「……うん、やはり君は面白い! ただの人間と言ったことを訂正しよう」

 ただの人間でいいのに……。

「強化のことを教えてくれる――そういうことだな?」
「それだけじゃなく、属性ごとの永久強化を君に教えようじゃないか! それを済ませれば、君の国は君が破れるその時まで永久強化される」
「破れるつもりは無いけどな」
「じゃあまずは、君からもらった氷を使って伝授としよう!」

 面倒な相手だったがとりあえず納得したようだし、一応の問題は片付いた。後はルティを探すだけか。
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