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第二十二章:果ての王

477.シーニャと魔王 3

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「……ぐっ――」

 おれの選択肢は"痛み"を味わうことしか考えられなかった。防御力が最弱になっても、力はそのまま。ということはちょっと力を出せば、彼女たちを簡単に消し去ることが出来るからだ。

「フフ、何も手を出して来ないのかしら? それとも出せないほど弱い? 人間と戦ったことが無いのだけれど、あたしが手を下すまでも無かったかしらね」
「神に逆らう愚か者め! わらわがお前を斬る! 斬って王に捧げてやるのじゃ」

 ミルシェとフィーサは長いこと生きている存在だが、人間とは戦った記憶が無い時代なのか。フィーサの言葉は古代っぽいな。

 普段おれに使ってる言葉遣いは、可愛い子ぶってるし甘えてもいるってことのようだ。
 それにしても、この痛みは久しく味わってないだけになかなか厳しい。

 両腕両足は重くて上がらなくなり、全身に痺れを伴った激痛が走っている――というのは彼女たちをあざむくための芝居だ。自ら麻痺をかけて重力をかけただけでそこまで苦しさは無い。

 つまり魔王がおれの防御力を最弱にまで下げても、魔剣ルストで防いでいれば何も問題は起きないことを意味する。攻撃を喰らった際の痛みは感じてしまうが、彼女たちの攻撃で致命傷になることは無い。

 魔剣自体に興味が無いのか、魔王には今起きていることが見えていないようだ。実態は魔法攻撃にしても物理攻撃にしても、そのほとんどをパリィ受け流ししているに過ぎない。

「アーハハハハ!! そうか。君の強さは小賢しさも含まれていたね。僕が知らない魔剣を手にしている辺り、狡猾さも備えていたみたいだ」
「魔王が知らない魔剣があるのか?」
「魔石ガチャで出された変な魔剣なんて僕は知らないね。やれやれ……どうやら君が仲間としている女たちを使っても、面白くなりそうに無いな」

 どこまで遊ぶつもりなんだこいつ……。

「それなら彼女たちを解放しろ! 話し合いをしたいはずだ。そうだよな? スフィーダ」
「……ふむ。そうしよう。では受け取りたまえ」

 魔王はおれに対し、構えを見せていたミルシェとフィーサの動きを止めた。かと思えば、魔王は指をパチンッ、と鳴らして彼女たちの姿を消した。

 まさか存在を消したのか?
 そう思ったが、

「――えっ?」

 おれは全身に自ら麻痺を施し、感覚が無い状態を保っている。
 痛みこそ感じるが手足の感覚が無かった。

 そこに、

「むぎゃっ……!?」
「い、痛いなの」

 まさか彼女たちが上から落ちて来るとは。

「ミルシェ、フィーサ!」
「あ、あら? あたくしの真下からアックさまの声が聞こえて来るような……」
「わらわを踏んづけているのはお前なの!! 早くどいて欲しいなの!」

 相変わらず仲が悪いな。しかし痺れが残っているままではどけることが出来そうに無い。

「早くするなの!!」
「ふん、小生意気な小娘ですわ。それにしても、アックさまの上に乗っかっている状態も悪くありませんわね」
「ミルシェ、ミルシェに戻ってるんだよな? だったら早くどいて――」
「フフフフ。ルティと同じ事をしてくれたらどきますわ」

 こんなことをしている場合じゃ無いのに、ミルシェは何を考えているんだ。こうしている間にも、魔王が何かして来ないとも限らないのに。

「そ、それは……」
「……冗談ですわよ。今はそれどころじゃないですし、あたしはルティを助けますわ!」
「わらわはシーニャを何とかするなの!」

 意外に状況は把握済みか。しかし下手に動かれても困るし大人しくしてもらうしかないな。

「ルティもシーニャもおれが何とかする。君らは大人しくしててくれ。気付いて無いだけでかなり消耗してるはずだ」

 おれとの戦いでミルシェは魔法を使いまくっていたし、フィーサは剣としての動きをかなり繰り出していた。敵との戦いでもそこまで動いたことは無かったはず。

「ふぅっ。そうして頂けるならそうさせてもらいますわ……何だか力が抜けて来たので」
「わらわも疲れたなの……どうしてか分からないけど、疲れているなの」

 おれに言われた途端、2人はその場で横になってしまった。操られていた時の緊張も関係してのことかもしれない。

「……面白い光景だね。種族どころか存在すら異なっている者を手懐けるなんて」

 魔王スフィーダはおれたちの様子を眺めながら、特に手を出して来る気配が無かった。
 面倒くさい奴に違いないが、脅威となることはして来ないようだ。

「――それで、シーニャとルティも解放してくれるんだろうな?」

 シーニャはスフィーダのそばに立っていて、意識が無い状態となっている。ルティは時間でも止められたのかという感じで、微動だにしない。

「解放……解放か。それならこうしようか。ワータイガーの娘をくれたら、ドワーフの娘は無傷で返してあげるよ。それならどうだい?」
「ふざけるな! ルティもシーニャもおれの仲間だ。何を今さらなことを抜かしてる! さっさと解放しろ!」
「それなら仕方ない。アック・イスティはワータイガーと戦ってもらう。小賢しい真似は一切抜きでだ。彼女は君との戦いを望んでいる。存分に死闘したいそうだよ」
「嘘を言うな!! シーニャの意思も聞かずに何を――」

 スフィーダの指ならしで、シーニャの意識が戻る。
 そして、

「ウニャ……ニンゲン、アック。シーニャと戦え! シーニャ、アックと戦って確かめる。シーニャ戦う!」
「――! それがシーニャの意思なんだな?」
「戦う、戦って、シーニャ……アックを手に入れる」
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