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第二十二章:果ての王
474.劣勢の勝機
しおりを挟むウルティモの言葉通り、精霊竜が広間に侵入すると急に戦闘が開始された。おれとルティも戦闘に参加しようと敵に近付くが、
「わわわっ!? だ、駄目みたいです~。どうしましょう?」
「癪だけどこのまま抜け切るしか無いな」
「はぇぇ……大丈夫なんでしょうか? ウルティモさんとアヴィちゃん」
「……分からないな」
離れた所から支援するという手もあるが、見えない障壁が邪魔して一定の距離以上近付くことが出来ない。おそらくこれが魔王と種族ごとの盟約によるものに違いない。
ウルティモは時空を操る時空魔道士。そして精霊竜は属性に特化した竜だ。対するシャドウドラゴンは、闇属性のみの攻撃を繰り出している。
おれが戦ったシャドウドラゴンとは性質が異なるようで、やたらとブレス攻撃を連発して来るようだ。
「――むっ? アックくん、何をしている! ルティシアさんとともに早く先に進みたまえ」
ウルティモはブレス攻撃を避け切っているが、精霊竜はまともに受けていて苦戦しているように見える。特にアヴィオルは火炎竜でもあるので、相反しない属性相手には厳しそう。
「あんたの実力は分かってるつもりだ。だが、精霊竜は分が悪いんじゃないのか? 何かおれに出来ることは無いのか?」
「そ、そうですよぉぉ! わたしも何かお手伝いをしたいですっ!! アヴィちゃんが大変そうで~」
おれたちの声を聞きつつ、一切干渉させるつもりは無さそうだ。ウルティモが一瞬こちらに顔を向けるも、敵は間髪入れずに漆黒のブレスを連続して吐き出している。
「…………く!」
本当に大丈夫なのか?
敵はシャドウドラゴン一体とはいえ、戦闘出来るのがウルティモとアヴィオル率いる精霊竜だけだと厳しすぎるだろ。
「どどどど、どうしましょどうしましょ!! アック様ぁぁ」
「――って言われても制限下のバトルフィールドっぽいし、強制的に参加するわけにも……」
「わたしの拳で破壊すれば入れそうですよ! やっちゃっていいですかっ?」
「いや、待て!」
そもそも精霊竜ならともかく、何でウルティモが含まれているのか。
そう思っていたら、障壁を隔てた所で何かを言っている。
「……アックくん、案ずることは無い。劣勢の中にも勝機は必ずあるのだよ。それと――」
言っている間に、精霊竜アヴィオルの巨躯が床に叩きつけられている。
「あぁっ! アヴィちゃんが痛そうです~!! やっぱり障壁を破壊しましょう!」
「だから待てっての!」
見えているのに参加出来ないというのは、確かにもどかしい。しかし先に進めることが出来る以上は彼らを信じて進むしか……。
ウルティモは連続ブレス攻撃を受ける寸前で、バックステップして避けている。少なくともブレス攻撃を浴びることは無さそうだ。まともに受けているのは物理攻撃だけのように見える。
攻撃軌道をわずかにずらしつつ弱点を狙っているようにも……。
しかし武器を持たないウルティモが、どうやってとどめを刺せるのか。
「アックくん。われは時空魔道士であるが、かつてはこちら側の存在だったのだよ。だからこそ、魔王による盟約が生じているわけなのだが……」
グライスエンドにいたウルティモは妙な技を使っていて、初めだけ苦戦した。他の魔導士たちはともかく、町の入口にはドラゴンがいたのも妙だった。
そして途中の教会にスフィーダがいたがそういう繋がりか。
「……あんたは魔王に仕えていたってことか?」
「えぇっ!? ウルティモさんが?」
時空を操ることが出来るのはウルティモしかいない。そのうえ、この場所を知っていたのも彼だけ。おれに負けてあっさりと味方になったのも……。
「うむ。そうとも言える。魔王の目覚めを待つ前にわれは君に屈した。今はその償いのようなものを終わらせる必要があるのだよ」
途方も無い衝撃音が聞こえて来る。遠目でしか見えないが、アヴィオルと精霊竜に勝ち目が無さそうな感じだ。
そうなると未だ見せていない強さがあるのか。話を聞く限り、ウルティモ自身がシャドウドラゴンを倒す必要がありそうだ。
「……話し合いをするんじゃなかったのか?」
「盟約は別ということ。故に、君がこの戦闘に参加することは否。急ぎ、先へと進まれよ!」
おれたちには見せられない技でも繰り出すつもりがあるってことか。ルティが拳を繰り出しそうだし、先に進むしか無いな。
「分かった。死ぬなよ、ウルティモ!」
「アックくんとの盟約もあるし死ぬことは無い。無論、ルティシアさんの創作料理も制覇しておらぬゆえ。では行きたまえ!」
何を言っても無駄ってことか。魔王の元に近づいているようだし、進むしかない。
「アヴィちゃんがアヴィちゃんが~……ほえっ!? あああぁ、アック様!? いきなり抱え出してどう――」
「走るぞ。落ちるなよ、ルティ」
「ひぃえええぇぇぇ!!」
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