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第二十二章:果ての王
472.魔王との盟約
しおりを挟む「アックさま、ドワーフがたくさんいるです!! でもでも、何だかおかしいような……?」
魔王の城には簡単に進むことが出来た。
最初の広間に入るとそこには、ドワーフの集団があったが……。
「中央に固まってるだけで動こうともしないみたいだな。おれたちに気づいてるみたいだけど……」
広間の奥に目をやると、開きっぱなしの扉が見えている。魔王の元に行くためには、いくつかある部屋を抜けていく必要がありそうだ。
シーニャたちもここを抜けたってことか。
「アック様が素敵だから注目してるんですよ!」
「……違うと思う」
「ルティちゃん、イスティ様を困らせたら駄目だよ~」
「困らせてないですよぉぉ」
ドワーフから特に何かして来る気配はない。とはいえ、じっと見られてるだけなのはかえって不気味すぎる。ここに来た目的が戦いではないといってもだ。
ルティはドワーフの血が入っているが、違う雰囲気を感じているのか近付こうともしないしアヴィオルも行かせまいとしている。
広間にいるドワーフは全身が漆黒に染まっていて、話しかけられそうに無いが。
「敵じゃないにしても攻撃して来ないとも限らないよな……」
「どどどど、どうしましょう?」
これまで戦って来た敵のほとんどは、向こうから攻撃を仕掛けて来たことが多かった。そうじゃない敵の場合は何を敵対とみなすのか、それを見極める必要がある。
「ルティちゃん、落ち着いて~」
「ふーはーふーはー……」
ルティのことは精霊竜のアヴィオルに任せるとして。
こういう時、感知に優れたフィーサがいればな……。
「迷っているようだな、アックくん」
しかし今回はウルティモパーティーが来ている。
強さ的なものは別としても、知識を持つ者の意見を聞くことが出来るのは頼もしい限り。
「まぁな。あんたはどう見てるんだ?」
「われの見立てでは、あのドワーフはシャドウ族とみている」
「――シャドウ族か」
思い出すのは、暗礁域で戦ったシャドウドラゴンだ。厄介な特性を持っていた敵だった。
「うむ。生気を感じることが無ければ、意思も感じられない。さしずめアンデッド軍団といったところであろう」
「アンデッド……」
シーニャが不得意そうにしていたな。遺跡攻略の時に遭遇した亡霊ドワーフもアンデッドだった可能性があるが、あいつはいい奴だった。
ダークエルフたちも元々は暗礁域にいた連中だ。
そうなると、
「おそらく、盟約を交わした種族が魔王の城に集結しているのではないか?」
「盟約?」
「あのダークエルフたちも、かつてはバラルディアの住人だったと思われる。ドワーフもしかり、この先に控える種族もすでに息絶えた存在、つまりシャドウ族である可能性が高い」
そういえばこの場所と遺跡は繋がっていたような。あそこにはエルフの里があったし、墓も……。
「襲って来る心配はないんだよな?」
「……何もしなければ広間を抜けることは出来るだろう。しかしシャドウ族に一度でも敵として認められてしまうと、種族が違ってもしつこく追って来るのは避けられない」
「ちょっかいは出すなってことか」
「問題はまだあるのだが、ここを抜けるにはルティシアさんに耐えてもらう必要がある」
仮に襲われても脅威になる相手じゃない。しかしこの先もシャドウ族が控えてることを考えれば、何もしないで通り抜けた方が楽だ。
「ルティが何だって?」
「彼女は半分はドワーフなのであろう? そうなると同族とみなして寄って来る可能性があるのだよ」
それはまずいな。ただでさえルティは拳が強いし、手を出さずに耐えられるか怪しいところだ。
そうなるとルティを抱えて移動するしか無さそうだな。
「それなら心配ない。ルティを抱えて移動する」
「残念なことにここでは、種族の違う者との交わりが封じられているようである。アックくんの心配は分かるのだが、ルティシアさんだけで移動しなければならない」
「そんな、嘘だろ……」
間近に寄って来られながら移動するなんて、ルティが出来るとは思えない。
精神的には落ち着いて見えるが……。
「もし手を出してしまった場合について、アックくんはどうするつもりがあるのかね?」
「戦うだけだ」
「アックくんがそうするつもりならばわれも協力をするが、やはりルティシアさんに耐えてもらう方が得策である。それとは別に――」
「他にも何か気になることがあるのか?」
ウルティモはここでは無いどこかの場所に向かって、視線を動かしている。何かの動きを追っているかのようだが。
「虎の娘を急ぎ追わなければならぬ。今はまだ、動きを止めておらぬので問題は無いが……」
「シーニャのことか。シーニャが何だって?」
「……われの気のせいだといいのだが」
まさかと思うが、シーニャに何か起きるってことなのか。
確信が無いのかウルティモは言わないみたいだな。
「アック様~! 何をしてるんですかっ? あのドワーフさんたちと何かするつもりが無いんでしたら、さっさと移動しませんか?」
アヴィオルのおかげで落ち着いたのか、ルティが戻って来た。
「それなんだけど、ルティ」
「はい? 何ですかっ?」
「何かされても、手を出さずに耐えながらここを通り抜けてくれないか?」
「ほぇ?」
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