上 下
456 / 577
第二十一章:途切れぬ戦い

456.弱体支配の戦い 前編

しおりを挟む

「魔物ごとき女と同じ魔法、スキルを持つ以上仕方が無いとはいえ、ここまでコピーされるとはね!」

「あたしへの褒め言葉として受け取っておきますわ。ふふ、そちらこそ聖女様らしからぬ魔法を繰り出すものですのね」

 ミルシェとエドラの戦闘が始まった。

 2人の共通するところは同じ細胞を持つことにある。ミルシェはエドラに成り代わって動いていたこともあり、備わっている魔法や戦い方は同じと言っていい。

 力を取り戻したミルシェの姿は本来の姿である、スキュラそのものだ。
 しかし甦りを果たしたエドラは、おれがSランクパーティーにいた頃と全く変わっていない。

 姿そのものに変化が無いからといって、油断出来るものでは無いわけだが。

「アックにしたように、魔物のお前にも"麻痺"を喰らわせてやる!!」

 おれがレアガチャスキルに目覚める前、聖女エドラは弱体魔法を発動。
 それによりおれの全身は麻痺はもちろん、毒、睡眠耐性低下といったどうしようもない状態とされた。

 そのエドラが持つ弱体魔法は、水棲の魔物であるミルシェも使うことが出来る。
 もっとも彼女曰く、聖女エドラが使う弱体魔法は性質が違うらしい。

 人間相手か魔物へ使うかで、効果が異なると聞いたことがある。
 しかし弱体魔法のかけ合いを見る限りでは、大きな違いは無いような感じだ。

「ふん、魔物が努力したところで無駄な足掻き。さぁ、もっともっと弱体支配を高めるがいいわ!!」

 エドラから放たれているのは、猛毒が込められたスリップ系の闇属性。
 これに対し、ミルシェは避けることなく弱体をその身に受けている。

 何で避けないんだろうか。
 ミルシェは確かに強いとはいえ、以前のエドラと違う魔法を受けるのは油断しすぎなんじゃ……。

「……ふぅ。甦りの聖女と言ってもやはり元々は人間。名ばかりの聖女ですわね。同じ弱体でも禍々しさが桁違いですわよ?」

 おれの心配をよそに、弱体を受けてもミルシェに影響は無さそうだ。
 
「ウニャ! アック、アック!! 助け出したのだ!」
「アック様~! こちらは問題ないですっ!」

 ミルシェの戦いを見ている最中、機嫌良さそうなシーニャたちの声が届いた。
 リエンスは巻き込まれただけのようで、特にどこも怪我を負っていないらしい。

 しかしフィーサを奪ったエドラが、そう易々とフィーサを置きっぱなしにするのだろうか。
 シーニャとフィーサが会話出来てるかは不明だが、何かされてもおかしくない。

「……アック・イスティの大層な剣の切れ味はどうなのかしらね? 魔物であるお前で試したいのだけど、構わないよね?」

「弱体魔法に飽きたからといってあの剣を使うなんて、聖女の強さは大したことは無さそうね。そしてそれがあなたの挑発なのでしょう? いいわよ、ご自由に使っても構わないわよ?」

 やはりフィーサに何かしたようだな。
 意識を落としているとしても、フィーサがおれたちの敵になるのはあり得ないんだが。

「その前に、魔物女にこれをあげるわ!」
 
 エドラがそう言うと、ミルシェに向けて火属性のような魔法を放った。
 攻撃魔法のように見えたが、熱さを感じないようでミルシェは避けずに受けてしまった。

「――!? これは……」

「あはははは!! 互いの弱体支配に差があったようね! それは上位弱体の《アドル》。どうかしら、魔物のお前でも腕が腐っていく感覚は」

 弱体合戦を繰り広げ続けていたことで、エドラに対しミルシェは脅威ではないと判断。
 油断をした状態のまま受けた弱体により、ミルシェの両腕がみるみるうちに腐っているようだ。

 ミルシェの体は水棲の魔物の特性で、全身が青っぽくなっている。
 それが弱体魔法によって、植物が枯れるかのような濃い黒茶色に変わってしまった。

「ふふっ、中々面白い弱体魔法ですわね。ですけれど、少し経てばすぐに戻るのだけれど。聖女の攻撃はそれで終わりなのかしら?」

 ミルシェのいうことはもっともだ。
 意外な弱体をその身に受けたとはいえ、追加で何かして来るでも無いのは妙だ。

 そう思っていたが――

「ああっ!? フィーサ、どこに行くのだ!!」

 シーニャの悲痛な叫びとともに、エドラの手にフィーサがあった。
 そして、

「うぐっ!? そう、そういうことね……確かに生意気なその剣なら、腐りかけている腕くらい余裕に切り落とせる……油断したわ」

「この剣はそこの男の剣。つまり、魔物のお前にとって味方ということになる。どう? 味方に腕を切り落とされた感想は。人間に寄せたところで所詮、魔物。その体を全て腐らせて、全て切り刻んであげるわ!」

 ミルシェの油断があったとはいえ、フィーサが彼女の腕を切り落とすなんて。
 意識が無くいつものフィーサじゃなさそうだが、呪術でもかけられたか。

「……生意気な小娘に斬られるなんてね。ふぅ」

「ミルシェ! おれと交代だ! 今すぐ――」

「いいえ、アックさま。まずは小娘を正常に戻すのが先ですわ。その為にはこれから起きる光景に対し、少し我慢して頂きますわ。大丈夫、あたしは死にはしませんわ」

 何を言うかと思えば。
 フィーサによって切り刻まれるミルシェの姿を、黙って見ていろってことじゃないよな。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

不死殺しのイドラ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:13

全スキル自動攻撃【オートスキル】で無双 ~自動狩りで楽々レベルアップ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:1,237

ご主人様のオナホール

BL / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:460

アイテムボックスだけで異世界生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:837

アレク・プランタン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:377pt お気に入り:51

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:339

ゆとりある生活を異世界で

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:3,809

処理中です...