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第二十一章:途切れぬ戦い
456.弱体支配の戦い 前編
しおりを挟む「魔物ごとき女と同じ魔法、スキルを持つ以上仕方が無いとはいえ、ここまでコピーされるとはね!」
「あたしへの褒め言葉として受け取っておきますわ。ふふ、そちらこそ聖女様らしからぬ魔法を繰り出すものですのね」
ミルシェとエドラの戦闘が始まった。
2人の共通するところは同じ細胞を持つことにある。ミルシェはエドラに成り代わって動いていたこともあり、備わっている魔法や戦い方は同じと言っていい。
力を取り戻したミルシェの姿は本来の姿である、スキュラそのものだ。
しかし甦りを果たしたエドラは、おれがSランクパーティーにいた頃と全く変わっていない。
姿そのものに変化が無いからといって、油断出来るものでは無いわけだが。
「アックにしたように、魔物のお前にも"麻痺"を喰らわせてやる!!」
おれがレアガチャスキルに目覚める前、聖女エドラは弱体魔法を発動。
それによりおれの全身は麻痺はもちろん、毒、睡眠耐性低下といったどうしようもない状態とされた。
そのエドラが持つ弱体魔法は、水棲の魔物であるミルシェも使うことが出来る。
もっとも彼女曰く、聖女エドラが使う弱体魔法は性質が違うらしい。
人間相手か魔物へ使うかで、効果が異なると聞いたことがある。
しかし弱体魔法のかけ合いを見る限りでは、大きな違いは無いような感じだ。
「ふん、魔物が努力したところで無駄な足掻き。さぁ、もっともっと弱体支配を高めるがいいわ!!」
エドラから放たれているのは、猛毒が込められたスリップ系の闇属性。
これに対し、ミルシェは避けることなく弱体をその身に受けている。
何で避けないんだろうか。
ミルシェは確かに強いとはいえ、以前のエドラと違う魔法を受けるのは油断しすぎなんじゃ……。
「……ふぅ。甦りの聖女と言ってもやはり元々は人間。名ばかりの聖女ですわね。同じ弱体でも禍々しさが桁違いですわよ?」
おれの心配をよそに、弱体を受けてもミルシェに影響は無さそうだ。
「ウニャ! アック、アック!! 助け出したのだ!」
「アック様~! こちらは問題ないですっ!」
ミルシェの戦いを見ている最中、機嫌良さそうなシーニャたちの声が届いた。
リエンスは巻き込まれただけのようで、特にどこも怪我を負っていないらしい。
しかしフィーサを奪ったエドラが、そう易々とフィーサを置きっぱなしにするのだろうか。
シーニャとフィーサが会話出来てるかは不明だが、何かされてもおかしくない。
「……アック・イスティの大層な剣の切れ味はどうなのかしらね? 魔物であるお前で試したいのだけど、構わないよね?」
「弱体魔法に飽きたからといってあの剣を使うなんて、聖女の強さは大したことは無さそうね。そしてそれがあなたの挑発なのでしょう? いいわよ、ご自由に使っても構わないわよ?」
やはりフィーサに何かしたようだな。
意識を落としているとしても、フィーサがおれたちの敵になるのはあり得ないんだが。
「その前に、魔物女にこれをあげるわ!」
エドラがそう言うと、ミルシェに向けて火属性のような魔法を放った。
攻撃魔法のように見えたが、熱さを感じないようでミルシェは避けずに受けてしまった。
「――!? これは……」
「あはははは!! 互いの弱体支配に差があったようね! それは上位弱体の《アドル》。どうかしら、魔物のお前でも腕が腐っていく感覚は」
弱体合戦を繰り広げ続けていたことで、エドラに対しミルシェは脅威ではないと判断。
油断をした状態のまま受けた弱体により、ミルシェの両腕がみるみるうちに腐っているようだ。
ミルシェの体は水棲の魔物の特性で、全身が青っぽくなっている。
それが弱体魔法によって、植物が枯れるかのような濃い黒茶色に変わってしまった。
「ふふっ、中々面白い弱体魔法ですわね。ですけれど、少し経てばすぐに戻るのだけれど。聖女の攻撃はそれで終わりなのかしら?」
ミルシェのいうことはもっともだ。
意外な弱体をその身に受けたとはいえ、追加で何かして来るでも無いのは妙だ。
そう思っていたが――
「ああっ!? フィーサ、どこに行くのだ!!」
シーニャの悲痛な叫びとともに、エドラの手にフィーサがあった。
そして、
「うぐっ!? そう、そういうことね……確かに生意気なその剣なら、腐りかけている腕くらい余裕に切り落とせる……油断したわ」
「この剣はそこの男の剣。つまり、魔物のお前にとって味方ということになる。どう? 味方に腕を切り落とされた感想は。人間に寄せたところで所詮、魔物。その体を全て腐らせて、全て切り刻んであげるわ!」
ミルシェの油断があったとはいえ、フィーサが彼女の腕を切り落とすなんて。
意識が無くいつものフィーサじゃなさそうだが、呪術でもかけられたか。
「……生意気な小娘に斬られるなんてね。ふぅ」
「ミルシェ! おれと交代だ! 今すぐ――」
「いいえ、アックさま。まずは小娘を正常に戻すのが先ですわ。その為にはこれから起きる光景に対し、少し我慢して頂きますわ。大丈夫、あたしは死にはしませんわ」
何を言うかと思えば。
フィーサによって切り刻まれるミルシェの姿を、黙って見ていろってことじゃないよな。
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