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第二十一章:途切れぬ戦い
455.絶望なる存在の影
しおりを挟むシーニャの言うとおり、少し進んだ先でルティが待っていた。
彼女が立っている後方から、空間が広がっているであろう光が見えている。
「ミルシェはもう戦ってる?」
「シーニャ、まだ進んでないのだ。だから戦いが始まってるかなんて知らないのだ!」
「そっか。ルティがいる辺りがぎりぎりな位置ってことなんだな」
さっきまでかかっていた制限は、体の状態を見るに解除されたようだ。
それでも最悪、エドラがいる場所そのものが制限下であることを想定しておく必要がある。
もしそうなら、おれの魔法攻撃力に期待出来ない。
それか、すでにミルシェが優位に運んでいる可能性もありそうだが……。
「アック様~。遅かったじゃないですか~!」
「まぁな」
「ミルシェさんがいるのはこの先ですよ。ちらっとだけ姿を確認しちゃいました!」
「そ、そうか」
見ただけで声もかけてないのか。
ルティらしいと言えばらしいけど。そうなるとまだ戦闘にもなってなさそうだな。
「ウニャ、早くフィーサを助けるのだ!」
「そうだな。行くか」
フィーサがエドラに囚われてからしばらく経つ。
彼女のことだから恐らく沈黙を保って、変哲の無い両手剣として大人しくしているはず。
そうじゃなければ、いくらエドラが脅威でもあの子が黙ってるはずが無い。
「アック様、ようやく明るい部屋ですよ~! 明るさがあれば、問題無く戦えそうですっ!」
「……何もなってなければな」
「ほえ?」
――などと、緊張感の無いルティを先頭に光がある部屋に進んだ。
そしてそこに見えるのは、
対峙して動かないミルシェと、エドラの姿だった。
他には見知った顔の男がいて、そこにフィーサブロスが置いてある。
「あいつは確か……」
「あれれ? あの人って、海底遺跡の時のリエンスさんじゃないですか? どうしてこんな所にいるんでしょう?」
「シーニャ、フィーサを救うのだ!」
まさかと思うが、壁と化したエドラの近くにでもいたか?
そこで遭遇したスフィーダに捕まったと見るのが正しそうだな。
エドラはリエンスを気にするそぶりも見せていないようだが……。
「ルティとシーニャは、リエンスとフィーサを! おれはミルシェの所に近付く」
「ウニャ」
「はいっっ」
今のところ制限下にないし、まずは分担して動く。
ミルシェの心配はしていないものの、対峙してるように見えてすでに始まっている気がしてならない。
ルティたちとは別に動き、おれだけがミルシェに近付いた。
そして、
「グズで役立たずのアック・イスティのくせに、ようやくのお出まし?」
ミルシェに近付いたところで、苛立つエドラが声を発した。
今のところ理性は保たれてるようだが……。
「ミルシェ。平気か?」
「……ええ。これから動こうとしていた所ですわ。手助けは無用ですので、間近で見てていいですわよ」
「そうするよ」
見た感じは、特に問題が発生している感じには見えない。
彼女の足下には、ルティ特製のドリンクを飲んだらしき小瓶が近くに転がっているだけだ。
それにしてもエドラの姿は、最初に出会った聖女エドラそのものに見える。
スフィーダによってどこまで強化をされ、特別なスキルを備えているのかは不明だが。
「荷物持ちのアック! 冴えない顔を晒しているということは、すでにグルートさまとは再会したということかしら?」
グルート……? さすがにもう現れることの無いかつての勇者の名前だな。
エドラもグルートが滅んだことは知っているはず。
しかし声を聞いていても、精神が錯乱状態にあるようには見えない。
そうなるとエドラを甦らせた時、スフィーダが何かしたか。
「あはははははは!! グルートさまのお力も恐ろしいけど、お前には更なる恐怖を教えてあげるわ!」
「……他に何があるんだ?」
――いや、正常な精神じゃないな。
何かが狂っているような、そんな気配が漂っている。
「グルートさまはおっしゃっていたわ! 自分には、人間に絶望しか与えない存在が控えていると。それこそが、計画の全てなのだとね! アックごときはわたくしだけで殺して差し上げるけど、もしわたくしを倒しても、グルートさま以上の絶望があると知れ!!」
なるほど。グルートに化けてエドラを甦らせたわけか。
そうなると今の話を信じれば、グルートに控えている存在はスフィーダそのものだ。
すでにどこかで待っているらしい奴を追えば、その存在に近付くということになる。
「絶望か。それは楽しみだな。ともかく、お前の相手はおれじゃなく仲間の彼女だ。おれと戦うつもりなら、彼女をどうにかしてから言ってもらう」
「いいわ、仲間を見殺しにするというのなら、そこで大人しく見ていればいい! すぐに終わらせてやるわ!!」
ミルシェとエドラ。どちらも同じ細胞を持っている。
そこからエドラだけが、昔以上の強さを取り戻している以上、おれの出る幕は無さそうだな。
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