454 / 577
第二十一章:途切れぬ戦い
454.シーニャと制限レベル下の戦い
しおりを挟む「ふぅっ……。海蛇の姿をした竜かと思えば、こいつは――」
出遭って来た他のどの形状とも違い、このスライムは全身が黒く、我慢出来ない程の異臭を放っている。形状を自在に変えていたことで、竜に似た姿をさせて向かって来た。
水流の流れにあえて押されながら行き着いた先は、天井が高くて広いだけの薄暗い空間。
とはいえ、無灯の回廊よりも明るさがあって敵の動きは問題無く把握出来る。
いっそ竜の方が戦いやすかったが、スフィーダが置いて行った合成獣ってことなら何が来ても問題無い。
おれは魔剣を中段に構えながら、スライムが伸ばして来た粘液状の触手をすぐに斬り落とした。
姿を見る限り、かつてのスキュラのように鋭敏な触角のようなものがある。
「ピギギギギギギ……」
だがおれを見る目などは無さそうだ。
つまりこいつは、聴覚と僅かな振動を頼りに動いているらしい。
そしてこの空間にかかっている最大の特徴。
それは制限レベル下であるということだ。
この空間に入ってからすぐに気付いたが、まだろくに魔法が使えなかった頃の状態にされている。
過去に戻された感覚で、それこそ東アファーデ湖村に迷い込んだ時に近い。
魔剣ルストの反応が悪いのが何よりの――
「……凍てつけ、《フロスト》」
氷属性魔法を発動したが、はっきり言って弱い。
ステータスも制限下のようだな……。
この現象で判断出来ないが、これはスフィーダの仕業ではない感じだ。
エドラとシーフェル王国とミルシェの関係で、過去の呪縛の影響を受けたのか。
そう思っているとそこに、
「アック!! そこで何をしているのだ?」
シーニャの声が聞こえた。
スライムの後方に見えたその姿は、装束を身に着けていないシーニャの姿。
ルティの姿が見えないが、ミルシェと合流させて置いて来たのか。
「シーニャ、その姿は……?」
「ウウ? アックからもらったのが無くなっているのだ!? 何なのだ何なのだ……」
シーニャの初期の頃、それもまだ装備を身に着けていない頃の姿に戻っている。
もっとも彼女に出会ったのはかなり後のこと。
水棲の魔物スキュラの時は、まだ出会ってもいなかったわけだが。
そうなると今のおれよりもシーニャの方が強いのでは……。
「アック、危ないのだ!!」
「――うっ?」
――っという間に、スライムの触手で壁に叩きつけられていた。
魔剣で触手をガードしていたのに、全く防ぎ切れていなかった。
ただダメージは感じられず、痛みは全く無い。
そうなると肉体的な強化はそのままで、強さそのものだけが初期化された感じか。
「アック、大丈夫なのだ?」
「痛みは無いから大丈夫。ただ、今の状態ではあのスライムは倒せそうにないな。シーニャなら余裕だと思うけど、やってくれるか?」
「ウニャ? スライムを倒せばいいのだ? アックは出来ないのだ?」
「……シーニャに出会う前のおれは破壊力が無いからね。ワータイガーのシーニャなら、問題無く倒せるはず」
おれを吹き飛ばし戦う相手がシーニャに変わると、スライムも形状を変化させた。
レベルに応じた変化のようだ。
しかし形状変化のスライムなど関係無いかのように、シーニャのクロー攻撃が発揮。
制限レベルの影響をものともせず、シーニャは自前の爪で敵に突っ込んだ。
スライムに形状変化をさせる余裕を与えない素早さで、あっという間に切り刻んでいた。
「圧倒的な強さだな……」
自前の爪で敵の懐に突っ込んだかと思えば、体を空中で一回転。
上段から容赦なく爪を交差させ、とどめのクロスクロー攻撃。
――これがおれと出会う前のワータイガーとしての強さか。
「アック。あっさりと倒せたのだ。もしかしてアックは、シーニャに戦わせたかったのだ?」
「あー……まぁ、そんなところだな」
「アック、優しい! アック、大好き!」
むぅ……。
ダメージは負わなかったとはいえ、レベルの制限下になったのは妙だ。
スフィーダからエドラに与えられた力が、レベル制限下にすることだとしたら……。
おれを弱体化させて殺すことが出来るということになる。
どうなるか分からないが、エドラはおれが直接消すしかない。
「ウニャ! ドワーフが近くで待っているのだ。アック、早く行くのだ」
「もしかしてエドラはこの近くに?」
「そうなのだ。手前にアックがいたからびっくりしたのだ」
じゃあここはやはりエドラの仕業か。
かつての聖女エドラ……。
存在しないこの場所で決着をつけて全て終わらせてやる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
554
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる