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第二十一章:途切れぬ戦い

449.魂の帰還 前編

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 敵であるダークフェニックスは、鈍い動きながらもおれに向かって来ている。
 その距離わずか数十メートルほど。

 これくらい離れていれば、連続発動の魔法を喰らわせることが可能だ。だがそれよりも面白いことを試すことが出来る、いい機会でもある。

 狙いは敵の羽部分。
 羽には蛾の特徴でもある奇妙な模様があり、攻撃の大半はそこから繰り出されている感じだ。

 そこに狙いを定め、少し強力な炎属性を命中させる。
 そうすれば一時的に動きを止めて、喰らった炎属性をも吸収し始めるはず。

 ごおっ。とした羽の扇ぐ音とともに、敵が正面から間近に迫りつつある。
 やるなら今しか無い。

 数本の赤毛を手の平に置き、元々感じられる炎の力に向けて魔力を注ぐ。
 敵に向かって弓を射るように構えを見せ、

「……火の渓谷地に眠りし精霊よ、ここに集い、深紅の炎となって穿て――」

 ほぼ真正面に迫っていた敵の羽部分に向け、狙い通りの攻撃が突き刺さった。
 直接的な魔法でも無く、拳による近接物理でも無かったことで敵はその衝撃を隠せずにいる。
 
「…………ピギギ――」

 ルティの赤毛を攻撃手段としたものだったが、上手くいった。
 まさか彼女も自分の髪が矢のように飛んでいくとは思わなかっただろうな。

 敵の動きは完全に静止、恐らく突き刺さったものから力を吸収しようとしているはず。
 
「アック様~!」

 敵が反撃に転じる動きを見せないことから、離れていたルティが真っ先におれの所に駆け寄って来た。
 動きは止めたがまだ終わってもいないのに……。

「こ、こら、まだ終わってないぞ」
「ええぇ? でもでも、いい感じに矢が当たってましたよぉ? あれ、でも弓矢なんて持ってましたっけ?」

 ほとんど魔力の無いルティでも見えたということは、炎の精霊の力でも感じ取ったか。
 おれが放った炎の矢は、精霊の力を借りて作った即席の武器。

 魔力量が少ない者には見えないわけだが……。
 
 彼女たちの中で極端に魔力が少ないのはルティになる。まぁ、さすがに自分の髪の毛を使われたとは思って無いよな。

「あの矢はルティの髪の毛だ。精霊と相性が良くて助かった」
「はぇ!? わ、わたしの髪の毛ですか? いつの間に抜き取っていたんですかぁぁぁ」

 変なことを言い出したと思ったのか、ルティは自分の髪を触りながら咄嗟にガードしている。
 しかもおれを変な目で見ながら距離を取り始めた。

 こんなところで警戒されても困るんだが……。

「アックさま。先程の攻撃は何です?」

 そう思ってたらミルシェとシーニャも寄って来た。

「あれは即席精霊魔法で生成した炎の矢だ」
「精霊の力……アックさまの新技ですか? それと、あの子が走り回ってますけれど放っておいて平気ですか?」
「《クリムゾン・アロー》だ。まぁ、ルティの赤毛を使っての矢だけどな」
「なるほど。あの子の……ふふっ、どうりで」
 
 赤毛と精霊による武器だから、ルティに協力してもらわないと次も使えないだろうな。
 そんなルティは、恥ずかしさと困惑でぐるぐると周りを走り回っている。

「ウニャ? ドワーフはどうしたのだ?」
「多分、気恥ずかしさで体が熱くなって走りたくなったんだろうな」
「ふんふん? それよりもアック、敵は倒したのだ?」
「いや……一時的に動きを止めたに過ぎないよ。とどめはこれからつける」
「シーニャも戦うのだ! アックだけに任せるのも退屈なのだ」

 テラーが効かないおれとミルシェなら、近接攻撃が可能だが……。
 動きを止めたに過ぎない敵に近付けさせるのはまだ危険だ。

「アックさまっ!! 炎が!」

 シーニャのことを考えていたら、敵から範囲のある炎の波が放たれていた。
 音も無く反撃するとは。

「シーニャ! 壁の方にぶん投げるぞ!!」
「ウニャニャニャ!?」
「うおりゃぁぁーー!!!」

 急激に迫る炎に対し、おれはともかくシーニャは防ぎ切れない。
 シーニャを驚かせてしまったが、彼女を持ち上げ退避させることに成功した。

 肝心のルティは――

「はひーはひー、今の炎は何だったんでしょう……」

 火山渓谷出身だから問題は無さそうで、近くにいるみたいだ。
 すぐに気付いたミルシェは、素早い動きでシーニャがいる壁側に退いている。

「……ルティ。落ち着いたか?」
「はいい。あのあの、わたしの赤毛――」
「それは後な。それよりも、今は目の前の敵を倒すのが先だ。お前が作ってくれた神聖水を使わせてもらうぞ」
「おぉぉっ! さぁ、どうぞ思いっきり!」

 小瓶に入っているルティ特製の神聖水を投げる。

 そうすれば、強力な聖属性効果で終えられる――
 ――そう思っていたが、それだけでは弱い気がした。

 とどめを刺しダークフェニックスと化した第一王女を還すには、直接手を下す必要がある。
 そう思っていたら、思いきり飲み干していた。

「――って、えええぇぇ!? アック様、何をとち狂ってるんですかぁぁぁ!!」
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