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第二十一章:途切れぬ戦い
447.ルティの神聖水
しおりを挟むミルシェの意志を聞いたついでに、少しの間だけルティを借りることにした。
そして彼女に頼んだのは、
「えええっ!? この場で作るんですか~?」
「そうだ。薬師を目指してるんなら、どこにいても作れるだろ?」
「で、ででで、出来ますけど~でもでも、素材はどこに~?」
ルティは見習いではあるが薬師のスキルを持っている。
そんな彼女に作ってもらうのは聖属性が含まれた水で、これの使い道はとどめを刺す時だけだ。
「属性を生じさせるから、そこから拾えばいい。一時的に発生させるからそこからだ」
「ほえええ!? アック様の魔法からですか!? や、やってみます。ええと、入れ物は……」
慌てふためきながらも、ルティはごそごそと自分の道具袋から入れ物を探している。
持ち歩いている辺りはさすがだな。
今まで攻撃時や防御時に出した魔法は、対象に向けて発動させることしかしていなかった。
しかし今試すのは、ルティに魔法を見せた状態で薬を作ってもらうという博打的なものだ。
強引なやり方になるが、多分大丈夫なはず。
「あ、ありました! アック様、いつでもいいですよぉぉ」
「よし。じゃあ発動させるぞ」
「は、はいっっ」
敵であるダークフェニックスは、全身にいくつかの耐性が備わったままだ。
まずはそれら全てに、デバフ効果を生じさせる必要がある。
その次に、闇が色濃い虫の部分を聖属性で切り離す。
そうすれば後は単純な攻撃で何とかなる。
「……聖なる霧となりて、沈静の浄化を果たせ《カルミング・ミスト》」
「わわわっ!」
特別なことをしたでも無く、手元にわずかな聖属性を霧状にしてみせただけに過ぎない。
これをルティに触れてもらってこの場で作ってもらう。
「ええと、ええと……霧を水にして……それからそれから~」
――いくら動かない魔物でも、おれがやろうとしていることを察知し静止した状態から動き出した。
この間はルティを守る必要があったが、シーニャたちが動いてくれている。
◇
「ウニャ!! アックとドワーフの邪魔はさせないのだ」
「近づきすぎない程度に攻撃をすることね!」
「分かってるのだ」
2度喰らっても、シーニャにはテラーを防ぐ手立てはない。そのことを学習したのか、彼女は爪攻撃を命中させた直後、俊敏な動きで敵を引きつけているようだ。
「とっておきはあなたごときに必要無いわ。《ハイドロ・ショット》!」
シーニャの近くにいるミルシェも、おれたちから敵を近付けさせまいとした弱体魔法を放っている。
水属性では大したダメージを与えていないようだが、動きを止めるだけでも十分だ。
◇◇
「で、出来ましたっ!」
「おっ! 早いな」
「名付けて、わたし特製の『神聖水』ですっ!」
そのままといえばそのままだな。
しかし投げつけて命中させれば、その効果はすぐにでも表れそうな濁りの無い水に見える。
もちろん、これだけでは足りない。
聖属性魔法を加えて使えば、効果は倍増されるはずだ。
「良くやったぞ、ルティ! これで何とかなりそうだ」
「あのぅ、ご褒美は頂けませんか~?」
「……じゃあ頭を――」
「え、えへへ……」
なでなでしつつシーニャたちの様子を確かめていたら、
「アック様、アック様! 髪を引っ張らないでくださぁい~!!」
「うおっ!? ご、ごめん!」
気付いたらルティの赤毛が何本か指先についていた。
ルティの赤毛から、微かに精霊竜からの熱のようなものを感じる。
ここに呼べはしなかったが、力の一部だけを呼んだ感じだろうか。
使えるかもしれないので、せっかくなので赤毛を残しておく。
「アック様、わたしもシーニャたちのところに行って頑張って来るです!!」
「ああ、気を付けろよ」
「はいですっ!」
これで後は、合成獣と化した第一王女と力をぶつけるだけだな。
そうすれば――
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