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第二十一章:途切れぬ戦い
446.結末の選択肢
しおりを挟む「アアアァァァァ……!!」
テラー付きのうめき声が、おれが近づく度に繰り返されている。
おれ自体にテラーは効かないのにだ。
ダークフェニックスと化した敵に対し風属性を含んだ拳を叩き込むが、
「――ちっ、風も同時展開か」
サーチで見えていたとおり、風に対する耐性は完璧のようだ。
続けて繰り出したのはインテンスヒートによる灼熱地獄。炎属性についても、与えられるかどうかを試してみる必要があった。
風もそうだったが、炎に関しても"蛾"の部分がそれら全てを防ぐ役割を果たしている。
羽を広げている間は動きを止めるものの、閉じている時の防御力は中々に高いことが分かった。
「アックさま。一体何を迷っているのですか?」
距離を取って冷静に戦っていると、ミルシェが声をかけて来た。
苦戦してるように思われたか?
「いや……そういうわけじゃないけど、それよりルティたちは?」
「あの子たちなら影響の無いところで休んでいますわ。あのうめき声の威力は、あの子たちには厳しいかと思われますので」
シーニャがスフィーダから喰らったテラーよりは、弱い感じではある。
――とはいえ、ミルシェは平気なのだろうか。
「君は大丈夫なのか?」
シーニャとルティは聴覚に優れている。
しかしミルシェだって研ぎ澄まされた感覚が備わっているはず。彼女だけが平気なわけがない。
「第一王女の姿の時に恐怖を感じていたくらいですわ。この体に叩き込まれた記憶がそうさせていただけですけれど」
ミルシェの体は元エドラの体。
エドラからすれば、姉である第一王女を苦手としていた可能性は無くは無いな。
「恐怖の植え付けも君には効かないってことでいいのか?」
「ええ。どうってことはありませんわよ」
「そうか」
「あたしのことよりも、アックさまですわ!!」
何やら怒ってるような感じに聞こえるけど、おれが何かしたかな。
「えっ? おれ?」
動きが鈍い魔物なのか、おれたちが話をしている間も特に近付いては来ない。
どちらかというと、こっちが近づくことで攻撃して来る感じに見える。
「魔物に姿を変えたからといってアックさまが苦戦するような相手ではないのに、何故本気で戦おうとしていないのです? 様子を見ている限り耐性がある相手というのは分かりますけれど、アックさまが時間をかける敵ではありませんわ!」
――あぁ、そういうことか。
ミルシェから見れば、元が第一王女だったことで戦いにくいと思っているんだな。
それもあるが、耐性を打ち破る手段も考えてはいる。
単純に滅するだけなら簡単だ。
しかしそれでは、スフィーダの思惑通りの結末になってしまう。
彼女の意識がまだ残っているなら、奴の手で変えられた姿を戻した上で終わらせてやりたい。
闇の力が色濃い虫の部分を切り離し、フェニックスとして。
「ああ、ええと……どういえばいいかな」
「……お優しいアックさまが考えていることなど、あたしにはお見通しですわ」
「ど、どんな?」
さすがに鋭いなミルシェは。
ルティやシーニャなら、とにかく倒すことだけを考えるはず。
「奥に引っ込んだ邪悪聖女はともかく、第一王女に罪は無いと言いたいのでしょう?」
「罪はまぁ……」
「帝国のあの男が仕掛けた罠で魔物化したのだから、せめて元に戻してやりたい。そういうことですわね?」
「……うん」
どのみち助からないとしても、スフィーダが見世物としてしたことには納得出来ない。
正直言って苦戦する相手じゃないのは確かだ。
どこかで奴が見ているとすれば、あっさり倒すことも出来るが……。
そう思いどおりにさせるつもりは無い。
「ふぅ。いいですわ、そういうことでしたらここはあなたさまにお任せしますわ。その代わり、邪悪聖女はあたしにやらせてもらいますわ!」
「君がエドラを?」
「いつまでも同じ細胞を持つ女にうろちょろされても嫌ですので。あたしに思う存分触れて頂く為にも、あの女はあたしがやりますわ」
触れるとか言ってるけど、もしかしてミルシェに触れると間接的にエドラに触れることになるのか。
――確かにそれは良くないな。
「分かった。それじゃあ、ルティたちのいるところで待っててくれ」
「お任せ下さいませ」
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