Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます！

第二十一章：途切れぬ戦い

443.第一王女との戦い：3

「ど、どうなったのだ……？」
「むむむぅ」
　
　シーニャたちが気にしているが、大きな変化は感じられない。
　だがテラーを込めた魔剣で斬った以上、何らかの変化が現れるはずだ。

　そうでなければ、また意味のない時間だけが過ぎて行くだけになる。

「――アックさま！　殻に亀裂が生じていますわ！」

　蛹さなぎ状態の第一王女に注視していた時、ミルシェが真っ先に声を上げた。
　
　ミルシェが声を上げた直後――
　ピシッ。バリバリバリ、といった音が間近から聞こえて来た。

　いよいよ羽化するのか。殻の中でどういう変化をしたのか気になる所だな……。
　サーチでもかけておくか。

「ひっひぃええぇぇぇ！？」
「ウニャニャ！！　でかいのだ――！」

　虫の要素を残しつつ、殻から出て来たようだ。
　眼前で見えるその姿はどう見ても――

　フェニックス……か？

「アックさま！　今すぐそこから離れてください！！」

　ミルシェからの声に応じて、すぐに離れた。
　そして見えたのは、

【ダーク・モス・フェニックスLv.-- 聴覚探知 耐性：風】

　全身が黒いうえに赤黒色の羽……目のような模様。
　姿だけを見て判断すれば、蛾とフェニックスによる合成獣といった感じだ。

　これがスフィーダの仕業だとしたら、第一王女はすでに――
　それにしても、テラーはあまり効果が無かったか？　

「アックさま、あの魔物は……？」
「恐らく合成獣だ。ルーン魔法文字から見えた名は、フェニックスとも読めた。しかし……」
「フェニックスというと、人間にとっては神鳥のようなものなのでは？」
「あぁ……しかし全身が黒いうえに、羽の所だけ見ればあれは――」

　姿が変わる前の第一王女は、確かに人間の姿をした状態で話しかけていた。
　すでに人として存在していなかったとしても、心の声のようなものは確かにあった。

　もしかすれば、帝国の奴に自分がなりたい姿を伝えていたかもしれないが……。

「やあああああ！！！」
「ウガウゥッ！！」

　おれとミルシェが冷静に魔物を観察していると、威勢のいい声が聞こえて来た。
　
「あいつら――！」

　シーニャとルティが勢いよく飛び掛かっていた。
　ルティはともかく、シーニャは退屈していたし無理も無いが……。

「どうなるかは分かりませんけれど、敵の反応を見るに丁度いいのではありませんか？」
「うーん……」
「あの子も虎娘も弱くは無いですし、やられることはないかと」

　敵の弱点は特に見当たらなかった。
　耐性が付いているようだが、2人とも魔法攻撃をするタイプじゃないし、心配することは無いか。

　おれとミルシェは、彼女たちと敵とは少し離れた所にいる。
　それだけに落ち着いて戦闘状況を眺めることが可能なのだが、何か別の音が聞こえて来た。

「ああぁぁぁぁ……」

　微かな叫びのような音、あるいは悲鳴のような声。
　おれが放ったテラー付与の魔剣攻撃が、時間差で効いている――？

「アックさまっ！　あの子たちの様子がおかしいですわ！！」
「むっ？」

　攻撃に入っていたルティ、シーニャの動きが急に止まってしまったようだ。
　ダメージを受けたでも無さそうだが……。

　何かあっても困るので、2人を回収することにする。

「ミルシェは回復の用意を」
「え、ええ」

　変化した第一王女と戦うのは後にして、ルティたちの所に飛んだ。
　こういう時こそ飛行魔法は便利だな。

「ウ、ウニャ……ま、またなのだ……動かないのだ」

「あうぅ……ど、どうして動かなくなるんですかぁぁ……」

「ルティ、シーニャ！　悪いが抱えて行くぞ」

　まるで全身に麻痺がかけられたかのように、2人は動けずにいた。
　動けない彼女たちをそれぞれ片腕で抱え、ミルシェが待つ所に戻った。

　この様子だと、テラーの効果がシーニャたちにも移ってしまったみたいだな。　
　あの叫び声のような音がそうだとすれば、かえって厄介な特性を与えたことになる。

　彼女たちを抱えて離れたおれに対し、敵が追って来る気配は無い。
　聴覚には優れていそうだが視覚は無い感じか。

「――ミルシェ！　頼む」
「分かりましたわ。でもこれって……？」
「恐怖の植え付けだ。叫び声のような音が聞こえただろ？　あれをまともに聞いて、こうなった」

　一度受けたシーニャにまたしても浴びせてしまった。
　――とはいえ、少しは耐性を得たのかそこまでひどくはない。

「あたしとアックさまには何とも無かったですわよ？」
「とにかく、2人を見ててくれ」
「わ、分かりましたわ」

　試し斬りも兼ねて与えた"テラー"が、まさかはね返って来るとは。
　そうなると敵のスキルは吸収系か――