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第二十一章:途切れぬ戦い

440.第一王女との対峙 3

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 ――シーニャからすればスフィーダは誰よりも許しがたい敵。
 しかもすぐ目の前にいて、おれに攻撃しているように見えていたはずだ。

 そうなると――

「ウガウウゥッ!!!」

 風を切るようにおれの横を通り抜け、スフィーダに向かって鋭い爪を振り下ろしていた。
 うかつな真似はさせたくなかったが……、

「斬属性攻撃か。それを今、受けるわけには行かないな。ショーが始まってしまうわけだし、しょうがない……可哀想だけど少し止まっててもらうよ」

 そう言うとすでに襲い掛かっているシーニャに向けて、スフィーダは両手を出している。
 ――何をやるつもりだ?

 構えた両手から、渦を巻いた旋風のようなものが見える。
 大きさは大したことは無いが、スフィーダは小さな旋風をシーニャの全身に放ち始めた。

「ウウウニャ!? 毛がおかしいのだ、おかしいのだ……逆毛立っていて動きづらいのだ、ウウウ」

 毛が逆毛立つということは、シーニャ自身は気付いて無くても恐怖を全身に植え付けた感じか。

「おい! シーニャに何をした?」

「アックくん、すまないね。獣の子に派手に動かれても厄介なのでね、《テラー強烈な恐怖》をかけさせてもらった。痺れるでもなく、ダメージを負うでも無いけど……訳も分からず怯えるくらいまでにはなるだろうね」

「テラーか。それで、お前は第一王女の助っ人か?」

「まさか。第一王女には施してあるからね。僕がやれることは何も無いんだよ」

 こいつの言い方だと、あの第一王女はもう人間のそれではないように聞こえる。
 そうなると、やはりミルシェとルティの方が危険だったのか。

「そういうわけだから、僕は聖女に挨拶しに行って来るよ。それじゃ、アックくん。第二階層で待ってるよ!」

「――さっさと消えろ、スフィーダ!!」

 調子よく帝国に迎え入れた奴が、ここまでおれたちに向かって来るとはな。奴の最終的な目的は未だに不明だが……まずはシーニャを回復させないと。

「……ウ、ウ、ウニャ、ア……アック、シーニャ……どうなっ……たのだ」

 恐怖の植え付けが現れ始めたのか。闇属性が色濃いシーニャなのに、こんな効果をもたらすとは……。道化師スフィーダ、あいつは何者だ。

「大丈夫だぞ、シーニャ。すぐに回復させるからな」
「ウニャ、ウニャ……」

 ◇◇

 ――シーフェル王城・中央広間

 おれとシーニャがいる所からミルシェたちと第一王女がいる所は、立ち姿くらいしか見えない。
 スフィーダの言葉を信じれば、彼女たちが対峙している第一王女こそがやばい相手ということになる。

 シーニャの回復を待つまで待ってられないが……。

「ふぅっ、どうやらまたしても面白そうな敵に当たってしまったようね……」
「ええぇ!? アック様とシーニャの方が楽だったんですかぁ?」
「向こうの方はよく分からないけれど、さっきから流れ出る汗が一向に止まらないわ。ルティ、あなたは大丈夫なの?」
「汗ですか? 全然熱さは感じませんよ~?」

 対峙している状態のミルシェだけが、畏怖のようなものを感じているようだ。
 ミルシェの体内には、第二王女の細胞が混ざっている。

 恐らくそれが影響して、畏れのようなものを肌で感じているのだろう。

「こういう時、お気楽なあなたがうらやましいわね。アックさまがそばに置きたい意味が分かるような気がするわ」
「はぇ? ええと、ミルシェさん。ずっと見つめ合ってても始まらないですし、攻撃しちゃっていいんですか?」
「……何が起きるか何とも言えないけれど、相手が動くのを待つ必要は無いわね! いいわ、ルティ。先制攻撃をしてあげなさい!」
「はいっっ!!」

 ◇◇

 シーニャの全身にかけられた"テラー"は、見えない恐怖によるものだった。闇装束を身に纏うシーニャでも、さすがに体内に暗黒系をされてはどうにもならなかったみたいだ。

 だがこういう時に使えるのが、

「……ウ、ウニャ……アック、それは魔石なのだ……?」
「ああ。サンフィアから預かった魔石だ。エルフの守りが込められている。これをかざすことで動けるようになるぞ」

 ウルティモと別れる時、サンフィアはおれに形見の魔石を預けた。彼女は特に何も言って無かったが、ウルティモによればエルフの魔石には浄化の効果があるらしい。

 長年エルフの里を維持し続けていたのも、魔石の力があったかららしいが。風の精霊が魔石に含まれているおかげもあるのかもしれない。

「ウニャッ!! 急に動けるようになったのだ! アック、アック! アックのおかげなのだ~!!」
「わぷっ!? こ、こら、いきなり抱きついて来たら――よ、よぉしよしよし……」
「フニャウゥ~」

 それにしても恐怖の植え付けか。属性的には魔剣ルストでどうにか出来そうな感じだが。このまま奴にやられっぱなしなのは気に入らないし、魔剣に覚えさせておくか。

 完全に浄化される前に魔石を魔剣につけて……後は魔剣で試し斬りをすれば――
 対象は敵とされる相手に振ってみるか。 

「シーニャ。第一王女がいるところに向かうぞ!」
「ウニャッ!」
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