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第二十一章:途切れぬ戦い

437.邪悪の聖女

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「ウウゥッ!! フィーサを助けるのだ!」

 敵がと分かる前にシーニャが飛び出していた。
 シーニャはおれたちの中でも一番動きが早い。

 おれが制止の合図をするよりも、彼女の動きが一足早かった。
 
「ウガウゥッ!!」

 ――電光石火。
 フィーサを捕らえている女の懐に向かって、シーニャが突っ込む。

 彼女の武器でもある爪は、ダークネス装備によって強力な攻撃力がある。どんな敵でも問題無くダメージを与えられるはずだ。

「……アハハハハッ! 獣ごとき攻撃。いちいち相手してられないわ!」

 ――むっ。弾いたか?
 何か特別な動きを見せたでもない女の全身から、激しい炎がほとばしっている。

 炎壁に守られているかのように、女の姿が一時的に見えなくなった。

「熱くて近づけないのだ……ウゥ」

 灼熱魔法かどうかは判断出来ないが、全身にまとわせられると厄介だ。シーニャには属性無視の攻撃が可能だが、フィーサが捕まっている以上それは難しいだろうな。

「アック様。あの炎の壁の中にフィーサがいるんですよね?」
「あぁ、そうなるな」
「わたしが突っ込んじゃ駄目ですか?」
「ルティが? さすがにそれは……」

 ルティは火山渓谷の生まれ。幼き頃から熱いところにいて慣れている。
 とはいえ、敵が展開した炎壁は性質が違う気がしてならない。

 このまま何の対策も無く突っ込ませては、ルティも捕まってしまう危険性がある。

「アック様のご心配はごもっともなのです。ですがっ! たまにはわたしも役立つことをお見せしたいですっ!」

 そう言って毎回捕まったりしてるけどな。しかし、フィーサだけでも取り戻せられるなら任せてやってもいいか。

 それにルティには、ミルシェがあげた属性宝珠がある。アレらを使って派手な動きが期待出来るかも。

「ミルシェ。ルティに宝珠を渡したんだよな?」
「ええ。あの子が持てるだけ渡しましたわよ。使い方はあの子次第ですけれど」

 現状シーニャが近づけず、かといっておれが突っ込むのも時期尚早。ここはルティを信じてやらせてみることにする。

「よし、いいぞ。思いきりやって来い!」
「はいっっ! ふおおおおおおおおお!!!」

 勢いのある返事と同時に、ルティが炎壁に突進していく。熱さで近づけないシーニャは、入れ替わるようにして戻って来た。

「あのドワーフ、大丈夫なのだ?」
「見守るしかない」

 様子見も兼ねてルティがどこまでやれるか。
 おれとミルシェ、シーニャは彼女が突進していく姿を黙って眺めた。

 すると――

 ドガッ、ドドーン。といった激しい爆発音が響き、同時に靄がかかっていた辺りが急激に薄れ始めた。
 肝心のフィーサ救出は不明だが、爆発を起こしたのは間違いない。

「ど、どうなったのだ?」

 あの女がいたところからは、モクモクとした黒煙が上がっている。ルティの状態も気になるが――

「ケホッ、ケホホッ……アック様、ルティはやりましたっ! 炎壁を破壊してやりましたっ!!」

 顔全体を黒くしながら、ルティは何事もなかったかのように戻って来た。
 しかし、彼女の手にはフィーサの姿が無い。

「ウニャ、ドワーフ! フィーサはどこなのだ?」
「あれれ? フィーサをきちんと捕まえたはずなのに、いなくなってる!? ええぇ~!?」

 ルティの突進で炎壁は解消された。しかし爆発の煙に紛れてルティの感触を騙したか。

「アハハ! ドワーフが突っ込んで来たのは驚いたわ。だけど、それがどうした? 属性で壁を作ることなど、荷物持ちのアックでも容易いこと。そうだろう?」

「お前はやはりエドラ? 何故……」

「くだらないことを聞く。わたくしは雑魚ザームやグルートさまと違って、消滅してなくってよ? もっとも――あなたごときに封じられた時は、少しばかり焦ったものだけど。魂さえ残っていれば復活なんて簡単……そうあの方はおっしゃっていたわ」 

 あの方……つまりおれたちを転移させ、聖女エドラを遺跡の壁から掘り起こしたのは帝国の――

「そいつの名はスフィーダか?」

「どうだったかしらね。そんなことより、アック・イスティ。あなたの剣はしばらく預かっておくわ」

「……おれの剣を強制的に眠らせたな?」

 フィーサを黙らせるには攻撃による封じよりも、眠らせる方が正解だ。それだけフィーサを警戒してのことだろうが。

「ドワーフごときに炎壁の衣を破られてしまったし、わたくしは失礼するわ」

「何? 逃げる気か?」

「わたくしも暇ではないの。何せ、シーフェル王国を昔以上の姿にする必要があるのだから。あなたには、王城を見学してもらってそのついでにシーフェル兵と遊んでてもらうわ」

 そう言うと、エドラは近くの壁の中に消えた。

「……壁に吸われたってことは――」
「あたしのスキルを持っているということですわね。海底にいた頃は壁を自在に使ってましたから」
「ミルシェのスキルはエドラの中に……そうだったな」

 いずれにしても帝国の道化師スフィーダの仕業か。
 結局は帝国の思惑通りに事が進んでいる……そういうことのようだ。

「ウニャ……フィーサを助けるのだ」
「わ、わたしも助けますです!!」
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