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第二十一章:途切れぬ戦い
435.ミルシェの機転
しおりを挟む「イスティさま~!!! さすがなの~!!」
戦いが終わったことですぐ間近からフィーサの声が。物凄い勢いで一直線に向かって来たが、途中で人化して抱きついて来た。
「……ん、んむむっ――まっ、待っ……」
「イスティさま、イスティさまぁぁぁ!! もう駄目かと思ったなの~! でもでもそんな心配は要らなかったなの~!!」
出会った当初は少女姿だったのに、何ともふくよかな女性になってしまった。そんな彼女に抱きつかれたら、柔らかすぎる感触で気を失いそうだ。
「あらあら、小娘のくせに大胆なことをやるわね……」
「むむむむむ……わたしが真っ先に抱きつきたかったのに~!!」
「ウニャ……シーニャ、まだ痺れが切れないのだ。ウニャ……」
ミルシェたちも無事だったようだ。シーニャだけは雷の影響が残っているみたいだな。このまま感動の抱擁に浸るとミルシェに怒られそうなので、冷静になろう。
「……フィーサ。ありがとうな。おれは大丈夫だ」
「イ、イスティさま?」
「うん、君のおかげで魔剣の特性も分かった。これからもよろしくな、フィーサ!」
「ひゃんっ! ひゃうぅぅ」
人化してることをいいことに、フィーサの頭をなでなでしてあげた。彼女は満足してくれたようで、おれから静かに離れた。
魔導士ヘルフラムを魔剣に喰らわせたことで、辺りはすっかり静まっている。ミルシェたちは何が起こったかまでは分からない表情だ。
しかし敵がいなくなったことは確かなので、安心している感じか。
落ち着いたところでミルシェには聞いておかなければ。
「ミルシェ。話を聞かせてくれ」
「何を――あぁ、雷のことですわね」
「ああ。見たところ傷も負って無さそうだけど、何かしたのか?」
シーニャだけは彼女たちを助けようとしてたから違うけど。
そもそも雷属性はタクティカルパリィが無ければ、受け流すこともままならなかった。その影響を受けずに浴び続けていたミルシェたち。一体どうやって助かったのか。
「うふふ、お忘れです?」
「え?」
「あたしはキラキラしたものが好きなのですけれど、それらを使って雷を吸わせましたわ」
「キラキラ……宝珠だよな、確か。んん? 吸わせた?」
海底洞門の時は、恐らくどこかに埋めていたと思われる宝珠だが……。
宝珠好きなミルシェとはいえ、一体どこに隠し持っていたのか。
「ふふふ、普段は体の色んな所に隠していただけですわ。昔の力を取り戻してからは、しもべに持たせていましたけれど」
体の色んな……そこは追及しないでおくとして。
単なる宝石好きでは無かったのか。まさか宝珠にそんな特性が備わっていたとは。
「そ、そうなんだ。それでその宝珠は?」
「それなら――」
ごそごそと腰の辺りに手を入れて、ミルシェは宝珠を手に取った。
それをすぐに投げ渡されてしまったが、
「うわっと! これは――」
手にした宝珠を見ると、中で稲妻のようなものが見える。
「ええ、その宝珠には雷属性が入っていますわ。それを思いきり投げつければ、すぐに効果が現れるはずかと」
「驚いたな……宝珠にこんな効果があったなんて」
もちろん全ての宝珠にこんな効果があるとは限らないだろうけど、これは使えそうだ。
「アック様アック様! ミルシェさんのその宝珠をわたしにくださいませんかっ!」
「……ん? ルティにか?」
「はいっっ! わたしの攻撃手段を増やしたいですっ」
ルティの武器というと拳だな。それ以外に怪しげな薬だとか、強力な料理効果……。しかし拳は魔法相手だとどうにもならないし、それ以外は敵に対してだと厳しい。
このメンバーで飛び道具が無いのはルティだけか。
認めてやるしか無いな。
「……ん~まぁ、いいか。ミルシェもいいか?」
「ええ、アックさまにそれを言おうとしてましたわ。この娘なら、あたしの宝珠を使わせても構いませんし。いいですわよ」
やはりルティとの信頼関係は本物のようだ。ミルシェに守られながら戦うのが嫌だっただろうし、預けてやるか。
「よし、いいぞルティ。でもむやみに投げたりするなよ?」
「そんなことしませんよぉぉ」
「ミルシェ。他の宝珠も似たようなことが可能か?」
「試してませんけれど、出来ると思いますわ」
今すぐ次の敵が現れるとは限らないが、備えておいて損はない。
それに、今見えている光景が切り替わるのは時間の問題。その前に準備しておく方がいい。
「アック!」
「シーニャ、平気か?」
「ウニャ。マシになったのだ。シーニャ、ドワーフの石ころには近づきたくないのだ」
雷の宝珠さえ触れなければ大丈夫だと思うが、苦手な属性に近づけさせないようにしておくか。
「シーニャは二人を助けようとしてくれたんだよな?」
「そうなのだ。でも近づくことは出来なかったのだ……」
痺れで動けなかったことを気にしてるみたいだな。魔導士を殲滅したし、その時にでも――
「アック!! 何か音がするのだ!」
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