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第二十一章:途切れぬ戦い
427.黒門の秘密
しおりを挟む未練の無いシーニャの望みに応え、帝国の虎人族は全て滅した。
その直後、
「ウニャニャニャ!? 何なのだ、どうなっているのだ!!」
「シーニャ、おれに掴まって動くんじゃないぞ」
「わらわも大人しくしておくなの」
虎人族の存在が消えると村として保っていた風景が一瞬にして崩れた。虎人族は確かに存在していた。だが彼らを留めていた村は、そもそも存在していなかった。
音も無く崩れた空間。そこに残されたのは黒い門だけだ。
「また黒い門か。これ自体が一種の幻を見せていたってわけでも無いと思うが……」
おれが近づくよりも先に、フィーサが黒門から何かを感じ取っている。今さら近付いたところで何かが起きるとは限らないが油断は出来ない。
「うん、うんうん……分かったなの!」
「危険なものか?」
「これ自体に危険は無いなの。でも、あまり良くない魔力が注がれていたなの」
帝国に入った時から黒門に手こずらされていた。黒門自体、直接危険を及ぼすものじゃない。とはいえ、黒門が帝国にとっての重要なモノであることは間違いないだろう。
「むむっ? むむむ……これはもしかするともしかする……」
フィーサは黒門から離れず詳しく調べている。
そんな中、
「フニャウゥ~アックの撫で方が気持ちいいのだ~」
「よしよし……」
一度くっつくと甘えたくなるようで、シーニャはおれから離れようとしない。それならばと、おれもそれに応える。それにもふもふを堪能する機会は中々得られないので、今のうちにモフっておく。
「イスティさま!! 分かったなの!」
虎人族との間に何があったかは聞かないが、甘えたくなったのなら仕方が無い。
「ん?」
「この黒門から他の場所に繋がっている気がするなの」
「どこに繋がってるんだ?」
「その時次第としか言えないなの……でもでも、ここの魔塔の進み方を考えたら、黒門が鍵を握ってる気がしてならないなの!」
それはまたいい加減な……。やはりスフィーダが全ての元凶なんじゃないのか。どこかに消えたまま姿を見せないかと思えば、余計な敵を増やすしロクな奴じゃない。
姿を見せないといえば――
「フィーサ! とりあえず黒門は後回しだ。おれの元に戻って来てくれ!」
「わ、分かったなの」
思い出すまでも無いが、黒門を使うなら彼女たちと合流する必要がある。
「アック、どうかしたのだ?」
「シーニャ。途中までミルシェといたんだよな? ミルシェはどこに行った?」
「あの女ならドワーフを助けに行ったのだ。シーニャもゴブリンと戦いたかったのだ」
――なるほど。
あのゴブリンがここに到達していたのか。狙いはルティだけだったようだが。ミルシェが見かねて助けたといったところだな。
おれと一緒に次元魔法で飛ばした魔導士の行方も気になる。ゴブリンとの戦いが長引いてるとは考えにくいが、ミルシェたちのところに戻るしかない。
「イスティさま、戻ったなの」
黒門を調べていたフィーサが戻った。彼女には神剣の姿に戻ってもらおう。
「……フィーサ。人化を解除だ。ミルシェたちの所に急ぐぞ!」
「ウニャ! ゴブリンをやっつけるのだ!」
「仕方が無いなの。わらわも本気を出してあげるなの~」
――崖上の広場。
「ふぅっ、次から次へと敵が現れるものね……」
「あの人たちって、一体どこから現れちゃったんですかっ!? ミルシェさん、どうしましょう!?」
「大した強さでもないけれど、こちらの弱みを知っての上でわざと弱い攻撃をしているわね」
「はぇ? 弱み……?」
ミルシェが思う弱みは、魔法による反撃が出来ないルティのことだ。ルティの強みは近接戦闘であり、一撃で破壊出来る攻撃力。
しかし対魔法相手だとその強さは発揮出来ない。ルティの強さを活かすには、魔導士相手ではなくどちらかというと、ゴブリンのように考え無しに襲い掛かる魔物。
とてもじゃないが魔導士相手にじゃない。それを知られた上でミルシェは防戦一方に頭を悩ます。
「……ルティ。この魔導士たちと戦っていたのはアックさまなのよね?」
「はいっ。それがですね、アック様はわたしを飛ばしてくれたので、その後に何が起こったのかまではさっぱり分からないんですよ~」
「そうだとすれば、そろそろかしらね」
フィーサを鞘に収め、シーニャとともに最初の崖に向けて急いだ。そこから見えて来たのは防戦一方のミルシェに対し、弱い攻撃魔法を放つあの魔導士たちの姿だった。
「ドワーフもあの女も何を遊んでいるのだ?」
「防御に徹しているって感じだな」
「イスティさま、どうするなの?」
「突っ込む。遊んでいるように見えるが、魔導士の女がしびれも切らす頃だ。ミルシェに向けて強い魔法を放つはず。そこに飛び込むぞ!」
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