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第二十章:畏怖
420.シンザ魔塔 7
しおりを挟む「回復させる間を与えずに撃て!! 教導の力を思い知らせてやれ!」
ヘルフラムの連続した指示が聞こえると同時に、光属性の魔法矢が降り注いでくる。だがダメージを受けるものでは無く、足止め程度の威力しかない。
全ての属性に耐性がある以上、致命的なダメージを負うことは無いのだがどういうつもりなのか。それに魔導士が言う回復は不要なわけだが。
「アック・イスティ!! 貴様にはここに留まってもらう! 余裕ぶるのも今だけだ!!」
「遠隔攻撃を得意としているのは知っているが、こんな単調な魔法攻撃に何の意味が?」
「ハハハッ、貴様は飛ぶことが出来ない。自分の足下だけ気にしていろ!」
飛ぶというと飛行魔法のことだろうか。それはともかく、連続して降り注いでいる魔法矢はおれがいる所だけを残し、周りの地面を全て消失させていた。
(……なるほど。逃げ場を失わせて派手な動きを封じる作戦か)
奴らの光属性攻撃を受けつつゴブリンの気配を気にすると、ゴブリンは再び岩山をよじ登っているようだ。――となると、上の方でも戦闘が起きている可能性があるか。
ゴブリンはルティだけに狙いを定めているようだが、上には虎人族もいてシーニャも危険だ。つまり魔導士の役目は、おれを移動させないことにある。
遺跡の時に攻撃して来た魔法攻撃と比べても、あまりに威力が無さすぎだ。
「――なるほどな。言葉通りの足止めか。殺すつもりの攻撃にしては妙だと思った」
おれがいる場所と岩山は完全に隔離された状態だ。よじ登るゴブリンを払い落とすには、範囲系の魔法を浴びせるしか手は無い。
そんな面倒な手間をかけるより、おれが直接上に行けばいいだけだ。
「今さら気付いても遅い! ゴブリンどもは頂上にいる女どもを狩っている最中だ。貴様の力をもってしても――」
「……無駄口は無用だ。悪いが一緒に飛んでもらう! 唸れ、《誘引の闇刃》」
魔剣ルストを瞬時に抜き、連中をめがけて一閃。
振り下ろす位置に決まりはなく、魔導士がいる辺りに狙いを定めるだけだ。
そして、
「なぁっ!? き、貴様……どうやって引き寄せを!」
――バ、バカな!?
――エグリーさま、これは一体……。
飛行魔法を使って上に行くことが可能だ。そうなれば魔導士もろとも連れて行く方が早い。何より、ダメージ軽視の攻撃を喰らったところで何の意味も持たないからだ。
ヘルフラムと魔導士数人を至近距離に引き寄せたまま、次を繰り出す。
「息つく暇は無いぞ。行くぞ、《ディメンション・ウォール》だ。お前たちも"次元の壁"に付き合ってもらうぞ」
「――ぐっ、う、動けない……だと!?」
意思の疎通が出来ない連中ごと転送するには、次元移動しか手は無い。これ自体は、闇神クラティアの力と魔剣の力の両方を利用しただけ。大した消耗も無い。
――とはいえ、どこにたどり着くかは不明だ。
それまでルティやシーニャたちが無事でいるのを願うしかない。
――シャエラン村・無人広場。
「ウニャ? アックは来てないのだ?」
「小娘が遅すぎてイスティさまが苦労してるなの」
「だから駄目なのだ!! ドワーフがいつも足手まといなのだ!」
おれとルティが遅れて登っていた頃、彼女たちはシャエラン村にすでに着いていた。神剣の姿で上昇して行ったフィーサはあっさり合流し、暇を持て余しているようだ。
そんな中、シーニャの怒りの矛先はルティに向くところだったが……。
「……そうとも限らないと思うけれど? その証拠に……ルティがゴブリンを連れて来たわよ? 虎人族の姿も見えないし、アックさまの為にも片付けておくのがいいんじゃないかしら」
冷静なミルシェが目を向けた先には、息を切らせながらゴブリンに追われるルティの姿があった。
「ウニャ! ドワーフもたまにはいいことをするのだ。アックが来るまで暴れるのだ!!」
「わらわも暴れるなのー!」
「……ふぅ、小娘たちの機嫌取りも楽じゃないわね。ゴブリン相手なら、思いきり出来そうね……フフ」
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