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第二十章:畏怖
419.シンザ魔塔 6 南西区画攻防戦
しおりを挟むゴブリンが下に落ちていく中、おれはバリケードがある場所に降り立った。
(あぁ、やはりな……)
ゴブリンは獣人の中でも賢さが低い。それだけにゴブリンだけでルティを追って来たとは思えなかったが、予感は的中したようだ。
「へぇぇ……? ドワーフの娘が落ちて来たかと思っていたら、あの時のいけ好かない男か」
シンザ帝国の魔塔にはザームの連中が紛れている。そう聞いていたが、いきなり大物がお出ましらしい。
地面に落とされたゴブリンは起き上がれない状態だが、ゴブリンには目もくれず、おれだけに視線を集中している。
「そういうあんたは、確か教導魔導団のヘルフラムだったか?」
ザヴィ遺跡での遭遇、そしてその後も戦闘を求めて来た強敵……。魔法戦になるのは目に見えているだけに、この場にルティがいなくて良かったといえる。
「……ドワーフの娘を上手く逃がす察知能力だけは優れているようだな」
こっちの話にまるで興味無いのかおれの言葉は流された。ルティを逃がしたのは偶然なんだが。
「彼女だけを狙う理由は何だ?」
「貴様に話す意味など無い。無駄な話よりも、さっさと始めさせてもらう! 貴様もそれが望みのはずだ!」
「話す暇も与えないってわけか。それなら仕方無いな……」
ゴブリンは気にすることでも無いが、この魔導士を放置すると厄介なことになる。
魔塔の中での魔法戦がどう影響を及ぼすのかは不明。だがせっかく向こうから現れてくれたことだ。ここで片付けておく。
ヘルフラムなる女は魔導士数人とで、ひし形陣形を整え始めた。中央にヘルフラム、他四人が外側。魔法戦闘をするにしても最もバランスが良く、安定感がある配置といったところ。
どうやら本気でかかってくるらしい。
「貴様はザーム、シンザともに邪魔な存在。ここで消えてもらう! 《マッシブ・アロー》!」
ヘルフラムが放ったのは一見すると単なる光の矢。しかし近付くにつれ、凄まじい威力を擁しているかのようながっちりした矢が向かって来るのが分かる。
「――! 威力重視の魔法矢か」
どうなるか不明な攻撃だ。まともに受けてどうなるか……。属性耐性があることが知られているからこその意外な魔法攻撃だが、まずは避けることにする。
すでに射程圏内に入っていたが、俊敏な動きでそれを回避。魔法矢は地面に突き刺さって消えた。
「どういう風の吹き回しだ? 今までの貴様であれば、魔法攻撃は全て受けていたはずだ!」
「生憎だが、おれにも多少の回避スキルが備わってるんでね。受けても良かったが、何かがおかしいと判断して避けさせてもらった」
他の魔導士からは恐らく強力なバフを受けている。その効果を受けた魔法矢だ。変な付加効果があってもおかしくない。
魔法矢はすぐに消えたが、突き刺さった地面は深くえぐれているようにも見える。喰らっても問題は無さそうだが、奴の魔法には何かあるはず。
「ちっ、全て喰らう奴だと思っていたが……小賢しい男め!」
「それはどうも」
「……貴様にはしばらく我が魔法矢に付き合ってもらう」
「いくらでも撃って来て構わないぞ。当てる気があるならな!」
いくら魔法による矢でも、追尾して来るわけじゃない。そもそもまともに命中させる気が無いように思えた。どういう狙いがあるのか、まずはそれを見定めてそれからだ。
奴らとの距離は数百メートル程度。遠隔攻撃をするにしても双方の姿がはっきりと見えるだけに、お互い余裕のある射程距離に位置している。
そこに、光の小さな粒が突然頭上に集束し始めた。どんな詠唱をしたかまでは聞こえていないわけだが、意表を突かれた感じだ。
「喰らえ、《リフルジェント・アロー》」
「むっ?」
――頭上の光が一斉に降り注ぐ。
回避スキルを使う間も無いことから、ここは素直に攻撃を受けた。
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