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第二十章:畏怖
413.スキルアップの教え
しおりを挟むルティのリボンのおかげで、魔塔に潜む連中のことがつかめた。
何となくの予感はあった。
――とはいえ、ザームの連中……それも因縁のありそうな相手がいたのには驚きしかない。ザーム本国の戦力の底が知れないが、敵の気配を探るに脅威には感じなかった。
「……フニャゥ~ウニャ? アック、もう着いたのだ?」
「目が覚めたか? 上の階には着いたけど進んでもいないぞ」
「敵はどこにもいないのだ?」
シーニャの言う敵とは、魔物だけに限らず敵国の相手も含まれる。
しかしルティの回避スキルが発動しているとなると、敵と戦う機会は――
「ふわぁぁ……イスティさま、魔力感知が使えるようになったのは気付いているなの?」
「フィーサも起きたのか。……ん?」
地下書庫から魔塔に侵入してすぐに、気配的なものは感じなくなった。
そもそも意識して使うスキルでも無く感覚的に感じるもの。
そのせいか、深く考えることは今までなかったわけだが。
「使えても使えなくてもスキルを試してみるのも手なの! イスティさまの場合はやる気があるか無いかの違いに過ぎないなの」
「やる気はあるんだけどな……。意識して使う場合はどうやるんだ?」
「息を整えて頭の中で考えるだけでいいなの! さぁ、やってみるなの!!」
この場合、目を閉じて思い浮かべる方がやりやすい。
フィーサの言うように落ち着かせて、やってみることにした。
(…………集中か)
「ミルシェさん、お腹空いてませんかっ?」
「それを聞くってことは、あなたがそうなんじゃないの?」
「えへへ、実はそうでして~一人だと余ってしまうじゃないですか。だから一緒にどうかなぁと思いまして!」
「少し落ち着ける場所に着いてからならいいわよ」
(雑音……じゃなく、ルティとミルシェの会話がよく聞こえるな)
視界を遮断して呼吸を整えるだけで、ここまで研ぎ澄まされるとは。
いや、それにしたって。
「お肉ですかっ? それともお魚?」
「何でもいいわ。でも草は勘弁して欲しいけれど……」
「えぇ? 草もぐつぐつと煮込めば――」
「ああぁー!! ルティ、ミルシェ! 少し大人しくしてくれ!!」
思わず怒鳴ってしまったが、彼女たちは少し離れたところで会話していた。
「あうぅっ!? ごめんなさいいい~」
「アックさま、申し訳ございません」
二人の様子を見るに、気を遣って近くにはいなかったようだ。
どうやら離れた場所の音もきちんと拾えるらしい。
「イスティさま。その調子なの!」
「え、そうなのか?」
「でも、雑音に怒るようではまだまだなの」
「だよな……」
後でルティたちには謝るとして、気を取り直して集中力を高める。
そして、
【シンザ魔塔1階層 "発生型魔法生物" サーチ完了 スキルLv.-- 魔力使用可】
「どう? 見えたなの?」
「魔塔と敵タイプが見えた気がする……」
「イスティさまさえやる気出せば、スキルアップなんてすぐなの!」
今まで魔力感知に関しては、フィーサに頼っていたところが大きかった。
範囲外の気配こそ探れていたが、敵の種類や場所の名前までは不明なままやり過ごしていた。
毎回目を閉じてやるのは効率が悪そうだが、これもスキルアップ次第だとすれば繰り返すしかない。
「ウニャ、アックも眠かったのだ?」
「ん? ああ、いや……少し目を閉じただけだから大丈夫だぞ」
「それなら良かったのだ! ウニャッ」
そんなに長く目を閉じていた感覚は無かったが、敵が見える場所でやるにはリスクがある。
早いところスキルアップして、自然と感知出来るようにしなければ。
「あのぅ、アック様……うるさくしてごめんなさいですぅぅ」
「いや、怒ってない。怒鳴ってごめんな」
ルティだけ気にしすぎて謝って来たようだ。
今になって使えていなかったスキルを上げられたのは大きいが、彼女たちに八つ当たりするのは違う。
余計な気を遣わせない為にも対応出来るようにしておくしかない。
「ミルシェ! こっちに来てくれ」
序盤ではあるが魔塔の詳細が見えた。伝えたうえで、魔力を持つ彼女に準備してもらうことにする。
「は、はい。ど、どうされました?」
「ごめん。怒ってないから、おれの話を聞いて判断してくれないか?」
ミルシェは魔法防御に長けていることもあり、要点だけかいつまんで話した。
「――! なるほど。アックさまもようやく感知スキルを覚える気になりましたのね。そこの小娘のおかげなのでしょう?」
「ミルシェはとっくに?」
「もちろんですわ。あたしは魔力を有する生物ですから。剣の小娘よりも優秀ですわよ!」
覚えるべきスキルがありながら放置していたが、まずはスキルアップを果たせた。
とりあえず、ここに存在する魔物を倒しながら上を目指すしか無さそうだ。
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