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第二十章:畏怖

409.憂国の傀儡師

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 ――シンザ帝国・玉座の間。

「潜んでいるのは共和国のねずみと、イデアベルクのアレらで違いないのだな?」
「はっ。ザームの鼠らはアック・イスティが片付けることでしょう」
「……残党は将軍に任す。それから、ドワーフの娘は守れ。よいな?」
「ご御意に」

 姿無き皇帝との話を終えた男は、静かにその場を離れた。煌びやかな帝国とかけ離れた閑散の宮殿。そのことに憂いても、状況は一変しない。

 宮廷道化師と言っても、今や憂国の傀儡かいらいに過ぎないことを思い知った。気落ちしたところでどうにもならないと思いながら、男は数少ない兵に命令を下す。

「魔物は手筈どおりに放て! アック・イスティらは魔物の方が戦いやすいはずだ」
「分かりました。魔物はAランク程度でよろしいですか?」
「Sランク以上だ。あの男に弱いのを差し向けても意味が無い。仲間の彼女たちも同様だ」
「――! Sランク以上となると……合成獣しかありませんが、しかしスフィーダ様……アック・イスティに効かなくても仲間なる者には影響が!」
「ドワーフの娘以外は傷ついても構わん。理解したならば行け!」

 憂国の中に身を置きながら、兵にはそれを見せてはならない。
 ――という現実に、道化師改め傀儡師スフィーダは心を隠して憂うしかなかった。
 
「将軍? 貴様が帝国の将軍だと?」
「いかにも。正気を取り戻した感想はいかがです? 第一王女様?」
「小賢しい男め。ザームごとき小国と組み、わたくしを連れ去りシーフェル王国を滅ぼした男が何をほざくか!」

 スフィーダは帝国屈指の将軍。

 人心を意のままに操り、まんまと誘い出すことを得意とする男だった。イデアベルクのアック・イスティを操ろうと企み、帝国に誘い出したが……。

「王国はザームとは目と鼻の先。第一王女のあなたが残っていても、滅ぼされただろうね。第二王女さえ残っていれば話は違っていただろうけど、仲が悪いのは仕方ないね」
「エドラと仲良くなどと、くだらない。消えてくれてせいせいしてる! まぁ、エドラに成り代わった女とは上手く出来そうではあるけれど?」
「……それなら、あなたにも"力"、それも強化を与えて働いてもらおうかな」

 シーフェル王国の第一王女は精神が安定し、自分を取り戻していた。そしてその場で、王国が滅ぼされていたことを知った。

「何……? ただの人間であるわたくしをどう――!?」
「第一王女様、まずはお眠りくださるよう……目覚めた時、成り代わり王女に会えますよ……」

 第一王女は謎の女に触れられた時点で意識を閉ざした。抵抗も無く、諦めたかのように。

「ピティラス。第一王女の処理はお前に任せる。生きるも死ぬも王女次第だ。くれぐれも、ヴァンピールのような失敗作は作るなよ?」
「ワタクシに限って、二度目はありません」

 宮殿を目指すアック・イスティたち。
 そんな彼らとは別に、ザーム共和国とは別の思惑がもうすぐ始まろうとしていた。
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