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第二十章:畏怖

400.解呪のアイテム発揮する

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「アックさま、どうされます?」
「……そうだなぁ。アルビンはともかく、ルティの暴走を止めるとなると……」
「あたしはごめんですわ。あの子の拳は本当に痛いですもの」

 ここから見ているだけで判断すれば、アルビンは防戦一方でかろうじてダメージを受けてない状態。
 しかし理性を失いつつあるルティの勢いは止まる気配が無い。

 拳を剣だけでかわしているアルビンも、実力を上げて来たようだが……。

「フィーサ――」
「嫌に決まってるなの!」
「だよな」

 ルティとフィーサの相性の悪さはずっと変わっていない。
 ただでさえ闇に影響されての暴走だ。フィーサが近づくだけで何かが起こりかねない。

「フウゥゥー!! ドワーフ、シーニャが相手するのだ!」

 あれこれ悩んでいると、シーニャがルティの前に立ちはだかっていた。
 ルティの実力は一撃の強さならシーニャに勝っている。しかし素早さが無いのですぐにおさまるはず。

 そう思っていたが――

「でやぁっっ!!!」

 掛け声こそいつも通り。
 だが止めに入ったシーニャに対し、風圧を起こして思いきり拳を突き出していた。
 
「フギャッ!? ふ、吹き飛ばされるのだ……!」
「……ぬっ?」

 ルティは拳を片方ずつ前に突き出し、息を吸うと同時に引いて勢い任せで突き出す動きを見せた。
 その直後、拳圧で押されていたシーニャをアルビンが抑えて何とかその場に留まっていた。

 しかし、こらえきれず二人一緒に後方に吹き飛ばされてしまった。

「私の邪魔をする者は、全て必殺の《疾風突き》でお仕置きですっ!!」 

 どうやら完全に理性を失って暴走してるようだ。
 シーニャだけなら吹き飛ばされなかったかもしれない。彼女の後ろにアルビンがいたのは誤算だった。

 それだけでなく、ドワーフのリボンを付けてるせいか力が増幅してる気がする。
 純粋な拳対決だとルティに分があるが……。

「……アックさま。あの子を止めるのはあなたしかいないのでは?」
「小娘をしつけられるのは、イスティさまだけなの! 早くするなの!!」

 拳以外で彼女を大人しくさせるとなると、強力な魔法か一時的に力を弱くさせるかのどちらかだ。
 しかし出来ることなら、手荒な真似で大人しくさせたくは無い。

 力だけで解決するのは簡単だ。それでもためらうものがある。
 
「ほらほら、早くするなのっ! わらわはシーニャを見て来るなの。その間にやっちゃっていいなの!」

 シーニャの様子が気になるのか、フィーサだけさっさと行ってしまった。
 ミルシェはこの場にいるが、何か考えがあるのか動こうとしない。

「ミルシェ。何か方法は無いのか?」
「アックさま、腰袋にしまってあるのは魔石だけ? ガチャで出したアイテムもしまってあるのでは?」
「あー……、そういや何か出したな。草はルティに全部やったけど、石は全て一緒にしてた」
「意味のあるものが出ているのなら、あの子に使ってみるのがよろしいかと」

 ウルティモから預かった丸い石は効き目が無かった。
 そうなると残っている石は――これしかない。

 ミルシェに見送られ、おれだけでルティに近付く。
 戦う相手がいないせいか、ルティは標的を探して歩き回ろうとしている。

「ルティシア! おれだ、アックだ! いい加減、目を覚ませ」
「敵を見つけました!! よおおし、よぉぉぉし! すぐに必殺の~!!」

 正気じゃない彼女に名乗っても効果は見られず、一直線に向かって来た。
 このままルティの突進攻撃を受け止めながらかわすのは簡単だ。

 だが途中で必殺の突きを繰り出されたら、思わず反撃しかねない。
 幸いにして分かりやすいくらい一直線に突っ込んで来るので、彼女に向けて石をぶん投げた。
 
「いつものルティに戻れっ! おらぁっ!!」

 石に限らず今まで武器をぶん投げたことが無かったが、向かって来る相手に当てるのは簡単だった。
 向かって来たルティは避けることなく見事に命中。

 ガンッ、という鈍い音をさせてその場にうずくまった。
 そこから聞こえて来る音は聞き慣れた泣き声だ。

「びえぇぇぇ……あうぅ、痛い、痛すぎですよぉぉぉぉ……」

 どうやら上手くいったらしい。
 ルティに当たった石は衝撃で砕かれてしまったが、効果は絶大のようだ。

「上手くいったようですわね、アックさま。どういう効果がある石だったのです?」
「ガチャで出したアイテムだが、理性回復石だ。ぴったりだろ?」
「なるほど、解呪効果の石ですわね。それはともかく、ルティをなぐさめに行って差し上げては?」

 使い道が無い石だとばかり思っていたが、闇に影響された者を解く効果があったらしい。

「そうするよ。君はアルビンのところにでも行ってあげてくれ」
「分かりましたわ」
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