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第十九章:帝国の望み
395.戦闘魔導士の救済
しおりを挟む小賢しい真似をする奴を含め、戦闘魔導士全てを水に流した。
ルティたちも水に巻き添えてしまったが、傷を負うものではないし問題無いだろう。
「ふええ……びえぇぇ、あうぅ……びしょ濡れですよぉぉぉ」
「ウ、ウニャ……また濡れたのだ」
予想していたが、ルティとシーニャがびしょ濡れのまま訴えて来た。彼女たちの様子を見る限り、特にダメージを負ったようには見えない。
ルティたちには別の魔導士が相手をしていた。
――はずなのだが、単なる足止めだったのか疲れなどは見えない。
この場に戻って来ていないミルシェの姿を探してみると、彼女は戦闘魔導士たちを拘束しているようだ。
「……《ヒート》」
スフィーダに妙な真似をされても面倒だ。ルティたちはこの場ですぐに乾かす。
「はぇっ!? か、乾いてる……乾いてますよぉぉ!」
「ウニャニャ! アックの魔法なのだ?」
「おれのせいで濡らしたからな。でもすぐ乾いただろ?」
「ウニャッ!」
「さすがアック様なのですっ!」
信用の出来ない帝国内を進むにしても、この先何が起こるか分からない。
びしょ濡れのままで歩かせてもいいことは無いので、すぐに事を済ませるに限る。
「それで、スフィーダ。敗残者と呼ばれている彼らをどうするつもりだ?」
帝国の思惑どおりに行かなかった彼らの処遇が問題だ。抵抗が無駄と分かっているとはいえ、連れて行くことは出来ない。
ミルシェが拘束している人数は合わせて、五、六人程度。大人数でも厄介だったが微妙な数だ。
「自分は特に権限が無いのだよ。彼らの始末はアック・イスティ、君次第と言っていい」
皇帝の意思とは別の行動だったと言わんばかりに、彼らに対する興味はすでに無くしている様子を見せている。何とも無責任ではあるが……。
「生かすも殺すも……おれが判断していいってことだな?」
「もちろんさ。皇帝は彼らの存在を知らないし、興味も無いからね。自由に決めていいよ」
皇帝の使いと言っていたが、彼らのことは利用価値が無いと判断したようだ。
「手を出さないと誓えるか?」
この男に中途半端な約束をしても無駄だろうが、睨みは利かせておく必要がある。
「いいとも。他ならぬ君の頼みならね! 自分の役目はアック・イスティを案内することだからね」
「それならここで待て。おれは彼らを別の場所に連れて行く」
「……彼らをイデアベルクの戦力にするのかな?」
「さぁな」
戦力になるかはともかくウルティモと行動を共にさせた方が後々楽だ。
イデアベルクに人間が増えて来ていることもあるし、戦力の足しにはなる。
「洞窟トンネルに戻るというのなら、自分はこの先にある【リシェン黒門前】で待つことにするよ」
「……逃げるつもりは無いんだよな?」
「戦闘特区を水浸しにされたしもう無駄なことはしないさ」
いまいち信用出来ない男だ。
シーニャもずっと牙をむき出しにして睨んでいる。
「それで、リシェン黒門……それはどこにある?」
「水が引けたら黒い門が見えて来るはずさ。そこを目指せばいい」
スフィーダが待ち合わせ場所の名前を出した。
ということは、帝国内の先へ進ませるつもりがあるということになる。
「いいだろう。そこで待っててもらう」
おれたちはスフィーダをこの場に置き、ミルシェの元に向かった。
「アック様、フィーサはどこへ行ったんですかっ?」
「……ん? フィーサなら上だ。気ままに飛び回ってると思うぞ」
「はぇぇ、空を飛んでるんですか~」
そのはずなのだが彼女の気配がつかめない。
フィーサが闇の剣ということにも驚いたが、魔導士たちの声も気になるところだ。
ミルシェの所に近付くと水属性の拘束魔法で、身動きの取れない彼らの姿があった。
弱っている状態では無さそうだが……。
「ミルシェ。何ともなかったか?」
「いいえ、ありましたわ……それはそれはとんでもないことですわ」
「拘束してるってことは、まさかダメージを――!?」
ミルシェと彼らの距離は魔法水壁で隔たりがある。
そうせざるを得なかったのだろうが、その割にはミルシェの様子におかしなところは見られない。
「アックさまにずぶ濡れにされましたわ……それってつまりそういうことですのよね?」
「――えっ?」
水を与えたという意味では彼女を強化したことになる。
しかしミルシェの態度が艶めかしい気がするのは気のせいだろうか。
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