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第十九章:帝国の望み
392.シンザ帝国:戦闘誘発特区(2)
しおりを挟む「ドワーフ、早くシーニャに代わるのだ!」
「えぇ? だって牛さんたちが~」
シーニャとルティでそれぞれ見えているものが違うのか、まだ戦いが始まっていない。おれ以外の彼女たちはルティに向けられた敵の存在に気付いているようだが。
戦闘魔導士の本命はこのおれ、アック・イスティ。
だがシーニャの声からは緊張が伝わって来ている。
つまり、他にも敵がいるということだ。
しかしおれは、雷の壁に阻まれ身動きが取れずルティたちの姿が見えない。
――ということにしている。
奴等の狙いが分かるまで、あえて引っかかっておくことにした。
おれさえ封じれば、彼女たちを捕縛することはたやすいと思っているはずだ。
「な、何も反撃して来る気配が無いけど、放置してもいいと思う?」
「ブラッドが心配か?」
「そうね……ドワーフと獣人だけとはいえ、不安はあるわ」
「無属性が整う間までならいい。行って来い!」
すぐ近くで会話している声が聞こえる。
おれが何もして来ないことで、この場を離れるようだ。
無属性を喰らってみたいし、大人しくしておく。
この時間を利用して、シーニャの戦いぶりを探ることにする。
「全く、ルティは何をしているというの! どうして戦わないかと思えば――」
「だってだって、牛さんがですね~」
「ドワーフ、邪魔なのだ!!」
動かないルティの横でシーニャが動き出す。
ルティがまごまごしている中、敵が放った矢が一斉に放たれた。
ルティのそばにはシーニャとミルシェがいる。
彼女たちであれば、一斉に降り注ぐ矢でもすぐにかき消せるはずだ。
「ウゥニャ!! こんなのは腕を少し動かすだけでいいのだ!」
シーニャは腕を振り上げるとすぐに放たれた矢に向かって爪先を振り下ろす。
数え切れない矢だったが、シーニャの爪で全てかき消えた。
彼女たち相手なら魔法が有効だ。
だが魔法攻撃では無く、物理攻撃で攻めているというのはおかしい。
「あわわわわ! 矢がエプロンに突き刺さってるじゃないですか!!」
「そんなの、シーニャのせいじゃないのだ」
「敵の狙いが分からないわね……どうしてこんな攻撃しかして来ないのかしら」
流れ矢でルティの焦る声が聞こえる。
ミルシェは敵の大人しさに不信感を抱いているようだが……。
(やはり見えずに探るだけだとつまらないな……)
「……へ、へへ。そろそろだ……」
戦闘魔導士の男の声が聞こえて来た。
無属性を放てる段階になったのだろうか。
(それじゃあ、そろそろ出るか)
呪術が込められているでもない雷の壁に対し、やることといえば拳で吹き飛ばすだけ。
よほど特別な魔法壁でもない限り、すぐに打ち破れる。
「――うおりゃ!」
何の付与もさせていない拳を雷の壁に突いた。
ビシッ、としたひび割れの音をさせ、壁はあっさりと崩れてしまった。
壁から出たすぐ目の前には、男の姿があった。
「ご苦労さん。待たされすぎて出て来ちゃったよ」
「な、何!? そんな、そんなバカな……カミラの魔法壁がそんなあっさりと……?」
敗残の戦闘魔導士たちはおれと戦っていない。
それだけに、どれほどの力の差があるのか分かっていなかった可能性がある。
「どうした? おれを無属性魔法でどうにかするんじゃなかったのか?」
「……そ、そのとおりだ。俺を消したら喰らうことは出来ないぞ。ウルティモと違って、あんたは逃げないだろうからな!」
苦しまぎれだろうが、誘っているようだ。
そこまで言うならどれほどの威力があるのか、受けておくか。
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