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第十九章:帝国の望み

391.シンザ帝国:戦闘誘発特区(1)

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「あの子……?」

 やはりルティを狙うのか。しかし帝国にもドワーフがいるのに、どうしてそういう真似を……。

「自分の役目は終わったので、これで失礼するよ。アックくん、存分に暴れていいよ。皇帝に近付くには、やはり圧倒的な力を見せつけて欲しいからね。敗残者を残らず追い出してもらいたい!」

 受け入れたとほざいていたが、全ては皇帝の為の駒のようだ。要するに今見えているのどかな田園地帯は、皇帝にとっておあつらえ向きな場所に過ぎないわけか。

 ザーム共和国とやり方は違えど、似た国であるということに変わりはない。

「全く、面倒な連中に好かれたな……」
「それにしては楽しそうな顔をしてますわよ?」

 そんなつもりは無いが、戦いが好きなのは隠しようが無いことだ。

「ウニャ、アックが好きなのはシーニャも好き! 暴れるのだ!」

 背中越しにシーニャが興奮している。彼女たちも、あのスフィーダによってストレスが溜まっている状態だ。それを今すぐ発散したいのだろう。

「それで、アックさま。どうします? ルティ次第ということに変わりはないと思われますけれど……」
「イスティさまに小細工なんか意味が無いなの! シーニャと一緒に小娘に近付くだけで始まるに決まっているなの!」
「それはあたしが言おうとしてたのに!! キー!」

 ずっと黙っていたフィーサも戦いたそうなのか、気が荒い。
 いつ暴れ出すか心配なので、シーニャをおんぶしたままルティの所に近付くことにする。

 ミルシェとフィーサはこの場で待機。動き次第でどうするのか決めるようだ。

「ウニャ、アック行くのだ!」
「そうするよ」

 おれの背中に乗りながら指示を出すかのようにして、シーニャが嬉しそうにしている。
 その姿勢をキープしながらルティに近付いた。



「なっ、何ですか、あなたたちは~!!!」

 近付いて声をかける前に、すでにルティに対し、が始まっていた。

 数メートル程度の距離があってはっきり見えないが、地中から何かが一斉に仕掛けている。
 このことに気付いていたとすれば、ルティも成長したと言えるが……。

「牛さんたちや、農夫さんたちをどこにやったんですかっ!!」

 どうやら純粋に違ったみたいだ。

 それがルティのいいところでもあるが、に気付いていたとしてもやはり興味本位で動いてしまうのだろう。

「アック、シーニャが行くのだ!」

 そう言うと、シーニャはするりと背中から降りていた。
 彼女と同じ方に向かうのは得策じゃ無いので、おれは地面が盛り上がっているところに向かった。

 ルティがいるところに着いたのか、シーニャが「ウニャー」と吠えている。
 彼女たちには各自で動いてもらう。

「――それでいいんだよな?」

 おれとの一騎打ち……といっても、複数のローブ姿が見える。
 ルティたちではなくおれが本命。わざわざ陽動作戦を取ったのだろうがご苦労なことだ。

「くらえ! 《ジャッジ・ボルト》だっっ!!」

 返事をする間もなく、魔法を唱えられた。
 頭上から感じる気配は雷属性。スフィーダが言っていたとおり、環境に遠慮はいらないようだ。

 敵の大多数が魔法を武器にするなら、こちらもそれを選ぶ。
 ここで魔剣を使ってもあっさり終わってしまいかねない。

「どんなもんか味わってみるか」

 上空から無数の雷が地面に線状を走らせ、おれの元で火花を散らし始めた。
 あらかじめ上空に蓄積していた雷と合わせて、地面に放電。

 普通なら逃がしてしまうものだが、それらがおれの足下に集まっている。

「くたばれ! 《アルティメット・ボルト》!!」

「――むっ!」

 かき集められた雷が人一人分くらいまとまって、おれの全身を覆いつくして来た。
 ――なるほど、これなら動きを封じられるか。

 まばゆい雷光が全身にまとわりついている。
 ミルシェたちがおれに対し声を発しているかは不明だが、声は一切届きそうにない。

 雷属性の敵はあまり出会ったことが無く耐性もそこまで高くないが、これはダメージを与えるのが目的では無い魔法。

 動きを封じてからじゃなければ、ダメージ攻撃が出来ないと踏んだのだろう。

「いいわ、封じた! ベイジルはこのまま無属性の準備を!」
「分かってる」
「カミラも備えておけよ! ザルクみたいな失敗は二度とごめんだぜ……」
「そうね。あの剣に気付かれる前に、こいつを弱らせてみせるわ!」

 敵の声だけはよく聞こえる。
 声の主はやはりグライスエンドで出遭った戦闘魔導士のようだ。

 あの剣と聞こえたが、魔剣のことは知らないはず。
 まさかと思うが、フィーサ――か。
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