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第十九章:帝国の望み
389.敗残者の報せ
しおりを挟む「スフィーダ……だったか? 随分ふざけた出迎えだな」
ルティはもちろん、シーニャをひどい目に遭わせたことは許せるはずもない。おれだけでなく、ミルシェとフィーサも怒りを露わにしている。
「こんな奴、やるしかないなの!」
「よろしいですよね、アックさま……」
ルティだけぼうっとしているが、他の彼女たちは本気のようだ。この男のふざけた態度に威圧したつもりだったが、ミルシェとフィーサの方が思った以上に頭に来ているらしい。
「ま、待て待て! この男はこういう奴だ。腹を立てたところで仕方が無いぞ。それにこいつが出迎えだろうし、我慢してくれ」
「そうだぜ、娘さんたち! 自分は敵じゃないのさ。殺気を向けられても困るよ。それに……すでに静寂は解けているよ」
相変わらずキザで胡散臭い男だ。
信用は出来ないが言われたとおりにシーニャの様子を見てみると、彼女は何事もなかったかのようにきょとんとしている。
「ウニャ? 何とも無いのだ!」
ミルシェとフィーサもシーニャの様子に安心したのか、敵対心を下げたようだ。この男のやり方といい、魔法扉の面倒くささを見る限り帝国は厄介そうな感じがする。
しかしすでに招待を受けてしまった以上進むしか無い。
スフィーダの後方にある洞窟トンネルから、向かい風を感じなくなった。ということは、この男の仕業だったみたいだ。
「……それで、スフィーダ。本当にお前が帝国へ案内してくれるんだろうな?」
「それは間違いないから安心してくれたまえ! ただ……」
「まだ何かあるのか?」
シーニャにしたことは単なるいたずらのようだが、まだ何かありそうな含みがある。そもそも帝国はおれとの交渉が上手くいかなければ、ザームと手を組んでいた国だ。
こっちが応じたからといってすぐに歓迎するとは考え難い。広大な土地ということは、皇帝の目が届かない場所もあるということになる。
「グライスエンド……今は旧グライスエンドだと思うけど、その時に戦った敵のことは覚えているかい?」
かつてのグライスエンドといえば、今は味方となったウルティモやドワーフ召喚士か。それ以外にもそこそこ戦闘をした記憶はあるが、印象に残ってはいない。
「覚えている敵もいるし、そうじゃないのもいる。それがどうした?」
「シンザ帝国のいいところは、そういう敗残の者も受け入れるわけなんだが……意味は分かるかな?」
まわりくどいことを言っているようだが、そいつらが邪魔をする。そうとしか聞こえない。そうなるとこの男に案内されても、すぐに復讐戦が開始されるってことになる。
「アックさま、何のお話です?」
「あぁ、ミルシェ。君はあの時いなかったから分からない話だと思うけど、旧グライスエンドでそこそこの敵と戦ってね。とどめは刺してなかったんだけど――」
「お甘いからそういうことになるのでは?」
「…………」
返す言葉も無い。イデアベルクで留守番をしてくれたミルシェからすれば、そう思ってもおかしくないことだ。
グライスエンドには初めから侵略するつもりで訪れたわけじゃなかった。とはいえ、また同じ敵と戦うことになるのは予想外のことだ。
「まぁいいですわ。一度戦って破っているなら、余裕なのでは?」
ミルシェの言葉を聞いたスフィーダは、首を左右に振りながら失笑している。
「ハハッ――」
態度が気に入らないが、敵の強化でも果たしたか。
ピティラスのような強化者がいる国だ。強くなっていてもおかしくない。
「……ちなみにどういう敵だ?」
「それはこれから案内すれば分かることだよ。さぁ、こっちだ! 洞窟トンネルを抜けてすぐに、戦闘魔導士たちが出迎えてくれるさ!」
ウルティモの部下だった連中か。ザームの魔導士とは違う感じだったが――怖くは無いな。
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