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第十九章:帝国の望み
379.深淵への誘い
しおりを挟む――旧グライスエンド。
ここにはかつて、時空魔道士ウルティモ率いる戦闘魔導士たちや、末裔ドワーフ。そして精霊竜と樹人族などが住み着いていた。
そのうち、ウルティモとドワーフ召喚士の子供たち、精霊竜がイデアベルクで暮らしている。ここで戦った魔導士や樹人族がどこへ行ったのかまでは不明だ。
辺りの光景を見ても、人の気配はおろか魔物が棲み付いているといった気配は感じられない。この地に残っているのは、人が住むには小さすぎる小屋が一つか二つほど残っているのみ。
後は隠れようのない荒野と、自然の要塞とも言うべき深い森が広がっているだけだ。そういう意味でも、思いきり戦えるいい場所といえる。
「ピティラス。あんたもヴィレム同様にヴァンピール族……だったか?」
旧グライスエンドに誘ったのは、ヴィレムに強化を与えた強化者ピティラス・アンダーだ。同じヴァンピール族だからこそ、常に行動をともにしていると思われるのだが。
「さぁ、どうでしょうか。それにお答えするには、先にヴィレムを消してもらわなければなりませんね。あなたさまならば、それが出来ると信じておりますよ……」
言葉だけを聞けば、まるで始末を望んでいるようなことを言っている。仲間かそうでないかは分からないが、やはりここでの戦いに企みがありそうでならない。
「ゲェッゲゲゲゲゲ!! アッグウゥゥ……無駄話はいらねぇぇぇぇ!!! 獣から頂いた魔力を喰らって、去ねぇぇぇぇ!!」
ヴィレムは痺れを切らしたようで、異様な燐光の色を指先に発現させ、その一つ一つに違う属性を割り当て始めている。
シーニャの物理攻撃で受けたダメージを、自らの魔力に変えて蓄えていたようだ。
「属性魔法の波状攻撃か!」
「ヒャハハァッ!! 去ね、去ね、去ねぇぇぇぇぇ!!!」
広がる荒野一面を使い、奴の波状攻撃による属性は容赦なく地中をえぐり出す。
対するおれは被魔法攻撃に関してもダメージ無効による弾きが出来るが、近くにルティやシーニャがいる以上、様子を見ながら波状攻撃を避けるしか術は無い状態にある。
「ウニャッ!! アック! 尖った水が落ちて来るのだ!!」
「アック様っ! 炎が炎が~!!」
離れた所にいる彼女たちからは、焦りの声援が聞こえて来た。彼女たちからすれば、上空や側面のあちこちから同時に属性魔法が放たれている光景など見たことが無いはずだ。
一方で森に近い所に立つピティラスは、この様子を冷めた感じで眺めている。おれの戦いというよりは、ヴィレムの終わりを待っているような感じだろうか。
「……さてと、避けてばかりってのも飽きるし、強化を受けまくったヴィレムには痛みを味わってもらうとするか」
「ギャアッハハハハ!! どうダァ? 尽きることない魔法攻撃とぉぉぉ、デバフブラストの威力はァァァ! アッグゥゥ……俺様に敵うわけがネェェェェ!!!」
もはや理性の欠片も残っていないようだ。
おれの名前を呻き、与えられた強さに溺れただけの屍に過ぎない。
こういう敵には同じ魔法で対抗してもきりが無さそうなので、斬撃で終わらせることにする。ここまで奴の攻撃を避けるだけに留まっていたが、奴の攻撃には全く怖さを感じない。
その意味でも、あっさりと始末した方が奴の為だ。
「……残念だな。魔術師としての腕を買っていたのに、それすらも失ってしまうなんて」
「グァゥゥ……?」
どうやら人の言葉すらも話せなくなったらしい。
この状態のヴィレムにはもう苦戦することは無いが、どうやってとどめを刺すべきだろうか。
「どうしたのですか? ヴィレムの攻撃には太刀打ち出来ませんか? おかしいですねぇ……ワタクシの呪術を消したのはあなたさまのはずなのに……」
倒す思考に至った所で、ピティラスが話しかけて来た。そしてあっさりと呪術をかけたことを認めた。
「あんたもヴィレムと一緒に斬ることも出来るが、企みがあるはずだ。それが分かっている以上、そこで大人しくヴィレムが深淵に沈んでいくのを眺めていればいい」
「ヴォァァァァァ!!!」
ピティラスが近くにいるにもかかわらず、ヴィレムが突っ込んで来る。
奴に対し、おれは魔剣ルストを構えるだけだ。
そして――
「――ゥァガ…………――」
特別な斬り方をしたわけでも無く、奴に向けて魔剣を突き刺しただけに過ぎない。
しかしヴィレムの姿は一瞬にして砕かれ、緑青の毒を周辺に散らばせながら存在ごと滅していった。
「一刺し……いいや、斬撃でしょうか?」
「《深淵の毒刃》。奴を深淵に招待しただけのことだ。毒はおまけだ。あんたの呪術のようにな」
「それはそれは……。ご丁寧なことですね」
近くにルティやシーニャがいなくて良かったといえる。もし近くにいれば、この技は使えないからだ。
「次はあんたの番になるが、戦うか? それとも――」
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