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第十八章:遺物の導き

377.ヴァンピール族の邂逅 【南4】

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 シーニャは回復に専念させ、ヴァンピールであるヴィレムと対峙することになった。奴から感じられる力は今のところ僅かに漏れ出している魔力のみで、際立った強さは感じない。

 しかし自らの正体を晒したことで、デーモン族にあるような翼を見せつけている。

「あんたもザーム共和国の手先ってやつか?」

「ザームゥ……? 違ぇ違ぇ違ぇ!!! あんな雑魚い人間に従う俺様じゃねぇんだヨォ! 俺らは常に独自に動いてるだけだ!! 従わなくてもニンゲンを襲うんだヨォ!」

 かろうじて人間の言葉を保っているようだが、体裁ていさいは崩れつつあるようだ。
 二人で動いているということは、もう一人はあの強化者だろうか。

「薬師イルジナとは別に動いてるくせに、都市を襲うとか……程度が知れてるな」

 この男の言っていることが正しいとすれば、氷雪都市を急襲した南だけは敵が異なる。騎士たちが防御に徹していた東西と北の地区は、あっけない強さの敵しかいなかった。

 ゴブリンが少しいたが、あれは傭兵と同じに動いていたに過ぎない。

「ケェッケケケケ……程度なんざァ、どうでもいいゼェ! 俺らはバフ持ちのアックさまと戦いてぇだけだぜェ?」
「パートナーは短剣使いのヘルガじゃなかったわけか」
「人間は弱ェからナァ~。ヘルガの結末は予想出来たゼェ? アックさまも同じダロォ?」

 短剣使いダガーキャスターのヘルガは、ヴァンピールによって洗脳されていた可能性が高い。正常に戻ってからラクルに居着いているのが何よりの証だ。

 理解出来ないのはザームの連中と別行動とはいえ、協力していることにある。
 だが今はそのことを考えるよりも、こいつの相手をしてやらねばならない。
 
「あぁ……そうだな」

 シーニャを引き離す為に放った拳圧に過ぎなかったが、それも吸収された。そうなると魔法で始末するか、あるいは魔剣でやるしかない。

「ククッ、よそ見してていいのカァ?」

 ヴィレムに言われるまでも無く、建物の陰から刃らしき先端が向かって来ていたのは知っていた。姿は見せていないが、ヴィレムのパートナーからの遠隔攻撃だろう。

「……無駄なことだな」

 霊獣の守りをシーニャに授けているとはいえ、おれ自身のバフ効果が薄くなるでもない。そういう意味で、どこから来ようと全ての攻撃は無効となる。

「フフフ。やはり攻撃は受け付けて頂けないようですね。さすが、神の力をも得た人間なだけのことはありますね……」

 遠隔攻撃は確かに無効化し、刃もろとも粉砕した。だがおれの目の前には突如として、深々とフードを被った女性が姿を現わしていた。

「お、お前は……!」
「お久しぶりですね、アック・イスティさま。もっとも、ワタクシは名前すらもお教えしていませんでしたが……ワタクシは、ピティラス・アンダー。以後お見知りおきを……」

 丁寧な口調で話すその存在は、確かに女性に見えている。しかし間近で感じた気配は、性別の違いなど無関係のように思えた。

「……! いつの間に」

 おれに話しかけたかと思えば、その女性は離れたところにいるヴィレムの傍に立っていた。

「遅ぇよ!! アック・イスティと無様に戦いたくねぇって、俺は言ってたはずだゼェ?」
「獣と遊んでいるあなたを見てたら、ワタクシも休みたくなりましてね」
「強化だ! 強化を寄こせ!」

 どうやら影となって動く、もしくは気配消しの技があるようだが、ヴィレムと違ってすぐに攻撃して来る者では無さそうだ。

 あくまで強化者としてなのか、それとも――

 どっちにしても氷雪都市を脅かした存在はここで始末しなければならない。そうでなければこの先、面倒なことが続くのは目に見えている。
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