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第十八章:遺物の導き
368.氷雪都市防衛戦線 【北】
しおりを挟むサンフィアの弟分であるロクシュ率いるエルフの若者を引き連れ、ヒューノストに接近する。
イデアベルクから感じていた気配を追ってのことだったが、向こう側はおれを待つつもりなど無かったらしい。
氷雪都市から感じた気配の多くは、すでに都市を攻め出していたようだ。
「アックのダンナ、煙が上がってんのはもしかして?」
「いや、あれは暖を取る為のものだ。敵の襲撃じゃないはずだ」
この場には回復が可能なミルシェと回復が使えるエルフが一人、そして近接攻撃主体のエルフたちを連れて来た。
そしてヒューノストには、ある程度のレベルには耐えられる騎士団が常駐している。
ザーム共和国からの敵だとしても、住民が危険に陥ることは多くないはず。
だが敵の中に高ランクが紛れていれば、話は違って来る。
「アックさま。敵の中に術者の気配がありますわ。騎士団では厳しいのでは?」
おれと同様に、ミルシェも敵の気配を感じていた。彼女は水棲怪物としての力を取り戻しただけでなく、呪術のスキルも得られた。
防御に長けているとはいえ、よほどの強者でなければ負けることは無くなったと言える。
そしてサーチスキルも上昇したおかげか、敵の詳細も掴めるようになった。
「あのルーヴが怠けていなければ、問題無い。少なくとも守るだけなら」
おれと再会するまでの白狼騎士団は、残念ながら守護するレベルには達していなかった。
だが武器防具を与えてから、そこそこの魔物と戦闘を繰り返していたのを聞いている。
奴の故郷でもあるイデアベルクには、常に脅威が迫っていたことを奴自身も学んでいたからだ。
「ですけれど――」
「おい、ダンナ! トンネルの先から嫌な風を感じるぜ! すでに攻め込まれてるんじゃねえのか?」
「分かるのか?」
「自然のことを感じられんのも、エルフの役割ってことだぜ?」
敵のサーチはともかく彼らを連れて来た狙いは、まさに自然のことを感じられるからに他ならない。
これに関してはロクシュだけではないようなので、敵以上に活かせそうだ。
「このまま突っ込む。ミルシェは彼らに防御系統の魔法を!」
「分かりましたわ!」
いつもならシーニャやルティが先導するが、今回は勝手が違う。
多くの人間が暮らす氷雪都市においては、知っている者が導く必要がある。
「先に行く。ロクシュたちは防御魔法がかけ終わり次第、続いてくれ!」
雪山トンネルをくぐり抜け、一足先にヒューノストの北側にある宿が見えた。
ここはイデアベルクに近い位置にあり、騎士団の連中しか足を運ばない場所だ。
特に異常は感じられない。
――そう思っていたが、遠目から見える光景からは、そうも言っていられない動きが確認出来た。
(あれはルーヴ!? まさか、ここで防衛線を敷いているっていうのか?)
ヒューノストの住民の多くは、他の町に近いトンネルの南側に多く暮らしている。
それだけに、北に位置する所には近づくことはほとんど無かった。
だが、騎士団の後方には数人程度の人の姿が見えている。
怯えている様子は無く、つるはしやスコップを持っているようだ。
「――むっ!? ここに近づくのは何者だ?」
騎士団の姿は無く、ここにいるのはルーヴただ一人のように見える。
イデアベルクに近い側だからなのか、警戒心は相当に高い。
「ルーヴ・イスティ! おれだ、アックだ」
イデアベルクに戻って以降、彼とはほぼ会うことが無かった。
敵の襲撃があるくらいは伝えた気がするが、おれのことは覚えているだろうか。
「何? アック? 雪山に来る装備をしていないではないか!! そういう無謀な奴は――」
「おれしかいない! だろ?」
「そのとおりだ! もしかして救援に来てくれたのか?」
「そんなところだ」
正確にはヒューノストにいる敵を排除しに来たわけだが、同じことだ。
ここに来ている敵を倒さなければ、イデアベルクが危なくなる。
ルーヴの後方にいる数人は、住民の中でも屈強そうな男たちばかり。
ある程度のことが出来る者たちを揃えた感じだ。
北に位置するここには宿の他に騎士の詰所があり、一時しのぎしか出来ない場所になる。
ここにいるということは、すでに南は落とされたということになるが――
「それならアック。騎士団が誘導している他の住民たちを、ここに連れて来て守ってやってくれないか?」
「それは南か?」
「いや、東と西に多くいる。南区画はすまんが、すでに敵……ザーム共和国の支配下にある」
「ザーム共和国! やはりそうだったか」
ヒューノストの南区画は、隣接する町から近い所にある。
転送魔法を使わずに来ることが可能ではあったが、ここを落としに来ていたとは予想よりも早い。
氷雪都市を攻め落としてしまうつもりだったのだろうが、思い知らせてやるしかなさそうだ。
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