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第十八章:遺物の導き
359.ダークエルフの解放条件
しおりを挟むシーニャのいる場所にたどり着くと、辺り一帯が完全に崩れて地形そのものが変わっていた。
やはりシャドウドラゴンがもたらした地響きが、何らかの影響を及ぼしたに違いない。
しかし行き止まりとなったわけではなく、単純な道から複雑な道に変わっただけのように見える。
手前で見えていたダークエルフの家らしき建物は見る影も無いが、小船は残っていて渡って行けそうな感じだ。
「アック! 船に乗って戻れそうなのだ!」
「ふむ……どうするかな」
「アックだけ飛んで先回り出来ないのだ?」
「……ん? あぁ、暗礁域にいる間は上手く飛べないし、先回りするつもりはないかな」
地上から空へ飛行する分には安定するが、そこまで飛行能力は高くない。それにここで無理やり動くことに、あまり意味は無さそうに思える。
「あれっ? アック様っ! 小船のところに釣り竿がありますよ~!」
「そりゃあるだろ。ここで暮らしていたっぽいし、釣りくらいしてもおかしくない」
「でも、ここに来たときは無かったですよ?」
「そうだったか? あまり見てないな」
この暗礁域に来た時点でシーニャはアンデッド軍団に集中攻撃をしていたし、ルティは骸骨を粉々に砕いていた。敵にずっとかかりきりだった状態で、釣り竿だとかそこまで見てもいないはずだ。
「これはもしかするとですよ!」
「……一応聞く」
「シャトンさんが来ているんじゃないですか?」
「それは無いな。釣りマスターだからって、イデアベルクから来られるわけ無いだろ……」
釣りギルドマスターのネコであるシャトンは、これまでどこにでも現れた。
しかしいくら何でも古代遺跡の、それも地下深くにまで追って来ているはずが無い。
「ええぇ~? そんな気配がしますよ?」
(せいぜい釣り竿くらいは転送出来そうな気がしないでもない)
それはともかく、無かった物が出現するということは何かに使う可能性がある。
そう考えればルティの言葉に従って、釣り竿を回収しておく必要がありそうだ。
「――とりあえず、釣り竿を拾っておいてくれ」
「はいっっ!」
何が起こるか見当もつかないが、キーアイテムになるかもしれない。
「イスティさま! 複数の気配を感じるなの! きっとダークエルフなの」
「どっちだ?」
「道の先というよりは、向こう岸の方で感じるなの」
「――ということは、小船を使わないと渡れない先か」
「でもでも、感じられる気配は良くない感じを受けるなの……」
どんなに弱っていても油断はしないと決めていたが、ダークエルフの狙いは魔石か。
そういう狙いがあるとすれば、彼らと距離が離れたのは好都合だ。
しかし――
「ここはダンジョンの中じゃなかったのだ? どうやったら外に出られるのだ?」
シーニャの言うように、ここがダンジョンの一部であることは疑いようが無い。
水路ダンジョンの地下深くに進んだのは想定外だったが、ダークエルフの依頼を受けてしまった以上はそれを叶える必要がある。
恐らく無理やりに出ることは厳しい。
それに辺り一帯の崩れた岩からは不穏な気配が残っていて、今にもアンデッドが出現しそうな感じだ。
ダークエルフの言う抹殺の願いは、少なくともアンデッド軍団なんかじゃなくシャドウドラゴンで違いないはずだが、まだ解決していないように思える。
「フィーサ。ダークエルフたちから感じられるのは敵対心か?」
「何とも言えないなの。何だか、海の底を気にしているような気がするなの……底に何か――」
「暗礁域の底にいるのが本命か」
ここからはかろうじて、向こう岸にいるダークエルフたちの立ち並ぶ姿が見えている。
声は届きそうに無いが、フィーサであれば交渉は可能のはずだ。
「ルティとシーニャは動かないでくれ」
「分かったのだ!」
「えぇ? 釣りも駄目ですか~?」
「まだ駄目だ! それじゃ、フィーサ。行けるか?」
「……仕方が無いなの。言葉だけは聞いて来るなの」
この暗礁域の中で、唯一空を浮いて動くことが出来るのはフィーサだけ。
彼女には、ダークエルフたちとの"交渉"をやってもらうことにした。
万が一向こうからの一方的な攻撃を受けても、フィーサであれば何も問題は無いからだ。
しばらくして、フィーサが戻って来た。
「どうだった?」
「イスティさまをここから解放するには、条件があるみたいなの」
「……どんな?」
「暗礁域の底に存在する脅威を二つ、取り除いて欲しい。ということなの」
やはりそうだったか。
シャドウドラゴンだけでなく、向こう側に脅威が眠っていたようだ。
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