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第十八章:遺物の導き
354.わがまま神剣少女
しおりを挟むシャドウディルアごと燃やそうと、灼熱系魔法を放った。
すると、どこかで見たような剣が露わになる。
「――む? あ、あれ?」
「アック様! あの剣どこかで見たことありません?」
「そうだな……どう見ても――」
「フィーサなのだ!! 早く助けるのだ!」
シーニャが叫ぶのも無理は無い。水路ではぐれてから、しばらく会うことが無かったからだ。
サンフィアとミルシェの行方も気になるが、現時点ではフィーサしか見当たらない。
三人ともどこかではぐれたのだろうか。
とにかく今は、フィーサに気付いてもらう必要がある。
「ルティとシーニャは、フィーサにやられておれの元に戻って来たんだよな?」
「あっ――そ、そうなんですよぉ~。何で攻撃して来たんですかね~?」
「ウニャ……きっと、ドロドロになっていたからに決まっているのだ!」
シーニャはそう言うが、どんな酷い状態になっても神剣が自我を失うことは無い。
そうかといって、魔物に動きを封じられているほど弱っていないのは明らかだ。
「仕方ないな。シーニャ。この剣を持っててくれるか?」
「ウニャ? アックの魔剣?」
「こいつとフィーサは仲が悪いからな。暴れられても厄介だし、シーニャに預けておく」
「任されたのだ!」
闇装備で身をまとっているシーニャであれば、魔剣も悪さをしないだろう。
「あれれ、アック様っ。わたしにはお預けにならないんですか~?」
「ん~? あぁ、ルティには別の役割があるからな」
「はぇ?」
「おれはフィーサを目覚めさせる。その間だけでいいから、シャドウ族を全部片づけておいてくれ! 出来るな?」
「は、はいっっ!! お任せ下さいっ!」
魔剣を預かったシーニャは後ろに下がり、ルティはシャドウ族に突っ込んだ。
――とはいえ、視界が悪い状況であまり距離を取ると、すぐにはぐれかねない。
ここで時間をかけるわけにはいかないだろう。
「――フィーサブロス! すでに目覚めているはずだ。おれの求めに応じて動きを見せろ!!」
フィーサとの距離は約五メートルほど。すでにシャドウディルアの手から離れ、剣の姿で空に浮いた状態だ。
その意味でも、シャドウ族とは無関係ということが見て取れる。後はフィーサ自身がこちらに気付いてくれるだけでいいのだが、矛先はおれに向いたままだ。
つまり、大人しく従う意思は無いことを表している。
「はぐれたこともそうだが、ほったらかしたことに腹を立てているのか? それともおれとやり合うのか?」
「…………」
本来なら魔剣でやり合うべきだが、恐らくそれは望んでいない。分かりやすいことに、彼女の剣先がおれに容赦なく向かって来ている。
そういうことならこちらも答える必要があるはずだ。
「本気でやっていいんだな? フィーサ」
フィーサはおれに対し、人化ではなく両手剣の状態で振り回して来ている。剣と剣のせめぎ合いではなく、拳と剣という特殊な衝突ではあるが、拳相手に対しやりづらそうな動きだ。
「――ずるいなのっ!!」
「ん?」
「ルティもシーニャも、ずっとイスティさまと一緒だったなの! わらわたちの苦労なんて、知られていないなの。全く全く!!」
「――っおぉっと! やはり怒ってるのか」
フィーサは斜めの軌道を見せたり、自身の動作を上下に揺さぶっている。しかし、本気で斬り込んで来ていない。
「当たり前なのっっ!! 何とか言って欲しいなの!」
あまりに機嫌を損ねているようなので、わざと動きを止めてぎりぎりまで避けないことにする。それに気づかないフィーサは、おれの頭上から勢いよく振り下ろして来た。
だが――
「……何だ、当てて来ないのか?」
「やっぱりずるいなの……わらわがイスティさまに攻撃するなんて、あり得ないなの」
寸でのところで振り下ろされなかった。
フィーサからの攻撃ならダメージ無効にもならないし受け止めてやるつもりだったが、それは無理だったようだ。
「おれもそうだよ、フィーサ」
「あぁっ……ますたーイスティさまっ!! やっと会えたなの!」
「――うぷっ!?」
人化したフィーサが、勢いよくおれに抱きついて来た。
大人な姿ではなく、少し成長した少女だった。
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