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第十八章:遺物の導き
352.暗礁域の影 2
しおりを挟む「こ、こら、そんな慌てなくても――」
よっぽど心配なのか、シーニャがいる方に向かってルティが勢いよく走り出した。
戦うことが久しぶりということもあって、拳を握りながら突っ込んでいく。
骸骨集団には生命感知があるはずだ。
だがシーニャに執着しているのか、後ろから迫るルティには目もくれていない。
「覚悟ぉぉ~!!」
無反応な骸骨に、ルティの拳が振り下ろされた。
すると、まるで手ごたえが無いくらいに、骸骨は粉々に砕け散っている。
「あれぇ!? まだまともに当ててもいないのに、どうして消えちゃうんですか~!?」
ルティの拳で消えたというより、彼女が近づいただけで消えた感じだ。
それはともかく、褒めちぎってやらねば。
「ルティ! よくやった!」
「え、えへへへ……それほどでもぉ~で、でもですね、おかしいんですよ! 突っ込んで拳を当てる前にいなくなってたんです。これってわたしの攻撃じゃないんじゃ?」
「んー……」
「あっ、でもシーニャの尻尾が見えますです! 早く追い付かないと!!」
不可解なことになっているが、シーニャの後ろ姿が確認出来るところまで近づけた。
有り余る体力があっても、きりの無い骸骨に飽きているはず。
そうしてシーニャに近付くと、彼女の声が聞こえて来た。
「おかしいのだ、おかしすぎるのだ! どうしてこんなにしつこく追って来るのだ!! ウゥゥ!」
前方の敵に攻撃をしながらも、後ろからの敵にも嫌気がさしていたようだ。
そこにルティが近づこうとすると――
「ウガウゥッ――!!! 近寄るな! なのだ!!」
「わわわっ!?」
「全部敵、シーニャに近づくな!!」
「わ、わたしですよぉぉ~! シーニャ、わたしは敵じゃないんですよ~?」
「うるさいのだ!! ガウゥッ!」
様子を見る限り、シーニャが闇化したようには見えない。
だが興奮状態にあるのは確かで、そこにルティが近づいたのでさらに昂ってしまったとみえる。
シーニャの潜在ステータスを探っても、状態異常は感じられない。
そうなるとまずは落ち着ける必要がある。
「あー、待て待て。ルティはシーニャに向かって来ている骸骨に突っ込んでくれ! シーニャはおれがなだめるから」
「わっ、分かりましたっ! ではでは、行きますです!!」
大した強さを感じない骸骨集団は、何の法則性も持たずに襲い掛かるばかり。
シーニャの攻撃も効いてはいるようだが、すぐに復活して消えることが無い。
しかしルティが近づくだけで、目に見える骸骨のほとんどが消滅している。
シーニャとどういう違いがあるというのか。
我を忘れているシーニャの元に近づくと、彼女はなりふり構わず爪を振り回して来た。
「うるさい、うるさいのだ!! ウウゥゥゥ……! ウガゥッ!!」
「――! おおっと、落ち着けシーニャ。おれだ。アックだぞ!」
通常は被物理無効ではあるが、眷属獣であるシーニャの攻撃はそれを無効とするようだ。
彼女の斬属性はそれだけ強力ということになる。
――とはいえ、かすって額に傷がついたただけで痛みそのものはない。
爪を振り回しているが、すぐに彼女の懐に飛び込んで全身を押さえつけることに成功。
「ウウウゥゥ――!? ウゥ……ウニャ? アック! アックが抱きしめて来たのだ!?」
「よーしよしよし……落ち着いたか、シーニャ」
「フニャウ……シーニャ、どうかしてたのだ。アック、傷がついているのだ……痛くないのだ?」
どうやら抱きしめたことで自分を取り戻したようだ。
警戒状態となっていた虎耳は、途端にへたっている。
「痛みは無いぞ」
「ウニャ……アックに攻撃してしまったのだ……アックに触れてなおすのだ」
「――おっ」
「ウニャウニャゥ……」
シーニャが手をかざすと、おれの額につけられたわずかな傷がみるみるうちに消えていく。
闇装備をしているとはいえ、シーニャは回復魔法が使える。
かなり久しぶりではあるが、回復魔法を使ってくれた。
「もういいよ、シーニャ。ありがとう」
「ウニャ。シーニャ、他にも何か傷つけたのだ?」
「いや、大丈夫だ。シーニャに何があったのか、聞かせてくれるか?」
「ウニャッ!」
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