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第十八章:遺物の導き
342.エラトラの腕輪
しおりを挟むダンジョンの攻略(といっても、攻略とは呼べないが)とザームからの追っ手には、若干飽きが来ていた。そんな状況の中、可能性を信じて飛び込んだ川の上流でまさかの再会。
盗賊剣士の彼とは下手をすれば、もう会えないかと思っていた。
それだけにここでの再会は、新たな展開の始まりなのではないだろうか。
「おぅ! 俺だ。敵に不意打ちをくらわそうと思って引きずり込んでみたが、まさかお前だったとはな!」
レイウルムにいたジオラスの弟デミリスの話によれば、ジオラスは遺跡の道案内で連れられていた。それも雑魚連中では無く、ザームの実力者と一緒という話だった。
いつまでたっても会えず、無理やり古代遺跡巡りに変わっていたわけだが――
「ジオラスは、自由を奪われていたはずでは?」
「まぁな。ザヴィ遺跡までは確かにそうだった。だがあの遺跡には大したもんが無くてな……鑑定士ってのもついては来ていたんだが、途中でやられちまった」
「それは魔物に?」
「いや、連中にだ。鑑定するもんが出なけりゃ、邪魔になるだけと判断されたんだろうな……」
気性の荒い奴はそんなにいないと思っていたが、非道な奴も紛れていたようだ。
「それで、ジオラスはどうしてここに?」
「必死に逃げた結果ってやつだ。恥ずかしいが、ザヴィ遺跡からここのダンジョンに入るまでずっと拘束されててな……」
「それは実力者がいたから?」
「まぁな。魔法を使う奴で厄介なのが一人いて、俺にはどうにも出来なかった。しかし幸運だったぜ! 最初の滝つぼがあるだろ? あそこで俺だけ別な所に流されちまってよ! 奴らとはぐれたってわけだ」
彼の話を全て信用するわけでは無いが、滝つぼは共通の話だ。
そもそもこんな場所で出会うこと自体、あり得ないことでもある。
それなら素直に話を聞いた上で判断するしかない。
「……それで、これからどうするつもりです?」
「ここに迷い込んだのがアックで良かったぜ! 敵だったらどうにも出来なかったが、お前になら頼めるし託せる!」
「え?」
制限下のダンジョンに入ってしまった時点で、魔法で無理やり出ることが出来ない。
もちろん物理攻撃も同様だ。
しかしジオラスの表情からは、何かの自信が満ち溢れている。
「そういや、他にも誰か一緒に来てんのか?」
「今は二人しかいないけど、仲間の彼女たちが一緒で外で待機してますよ」
「二人か。それは都合がいいな!」
「はい?」
「アック。お前にテレポートを頼みたい。使えるよな?」
もしやここから脱出しようとしているのか。
ただでさえ不安定な魔法に加え、現状は使用魔法に制限がかかっている。
そのことを知らないジオラスには、正直に話すべきだろう。
「しかしこのダンジョン内は使える魔法が限られて、とてもじゃないけど使えませんよ?」
「魔力自体は問題無いんだろ?」
「そりゃあまぁ」
「――ってことで、これをお前にやる!」
ジオラスは、腕に着けていた腕輪を外した。
腕輪にしては随分と宝石が散りばめられていて、何とも言えない派手さがある。
もしかしてこれは――
「その腕輪……もしかして、遺物の……?」
「やはり遺物のことを知っていたか。その通りだ! 始末された鑑定士からくすねたもんでな。しかしこの腕輪は魔力が無いと使えねえ。だがアック。お前なら使いこなせるんじゃねえかと思ってな!」
さすが盗賊の頭ともいうべき行動力といったところか。
ジオラスは盗賊でしかも剣士。さすがに魔力は無いらしい。
「どんな効果があるんです?」
「転送魔法が込められている腕輪で、【エラトラリング】って名前らしい。ザヴィ遺跡からここに飛んで来た時に、その腕輪をそう呼んでいたから間違いねえ」
――なるほど。だから一部の連中とは遭遇しなかったわけか。
転送もされず自力で来ているのは、ほとんどが傭兵と魔導士だ。
そこそこの武器は支給されているようだが、移動に関してはそこまで面倒を見ないといったところか。
「転送魔法ですか。でも行き先は――」
「魔力のある奴が決めた場所に飛べるのは確かだろうな! わざわざダンジョンの名前を唱えていたし、間違いないはずだ」
「……つまり、唱えた場所に飛べる便利アイテム?」
「そうだと思うぜ! アックなら飛べるはずだ。それをお前にやるから是非頼む!!」
アイテムということは、魔法制限がかからないということになる。
そうなるとあっさりとここを抜け出せるということになるが、ミルシェたちを置いて行くわけにはいかないし、また戻ることになるだろう。
「ちなみにここの小屋にいて、何か起きてないですか?」
「そういや、その腕輪を着けた時に何か聞こえた気がするな。しかし俺には魔力がねえし、何でも無かったんだろうよ」
「……まぁ、とにかく。外で待っている二人にも説明するんで、ここを出ますか」
「もちろんだ! よろしく頼む!」
この話をルティに聞かせると、その時点で一緒に脱出したいと泣き出しそうだ。
しかしそう上手く行かないようになっているし、仕方が無いと思うしかない。
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