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第十八章:遺物の導き
341.盗賊剣士との再会
しおりを挟む透明な壁に阻まれたうえ、ミルシェたちにも会えずじまい。
そんな中、さらに大勢の人間たちがこっちへ向かって来るという、何とも嫌な気配があった。
橋の真下には流れる川、前方は透明なゲートという、またしても面倒な展開になりそうな状況になりつつある。ここで予感したのは、壁の向こう側からの一方的な攻撃についてだ。
敵の攻撃には何も恐ろしさを感じないとはいえ、防戦一方になってしまうと自分以外の彼女たちへの負担が増す。体力的なことを考えれば、不利になるのは間違いない。
そこで取った行動が――
「ウニャ? アック、戦わないのだ?」
「あれれれ? アック様らしくないですよ? どうするおつもりがあるん――」
「そこの欄干から飛び込む」
大きな川が流れているとはいえ、このダンジョン内のどこかの場所に繋がっている。
敵と戦うのも捨てがたいが、戦ってもここで得られるものはほとんど無い。
それなら別の可能性を見つけた方が賢明だ。
しかし――
「――嫌なのだ!!」
「嫌ですよ!! どうしてまたびしょ濡れになる必要があるんですかっ!」
予想通りの答えが返って来た。
こればかりは無理も無いわけだが、通れず攻撃も通らない所に居続けても時間の無駄になるばかりではなく、敵の思うつぼだ。
「ここで疲れ果てて汗だくになってもいいのか?」
「ウ、ウニャ……それも嫌なのだ……ウウゥ」
「平気に決まってるじゃないですか! こう見えても汗だくになるのは日常茶飯事の~」
ルティは火山渓谷ロキュンテの出身でもあるし、そう言うと思っていた。
そう思っていたので、別の答えを用意した。
「よし、それじゃあ……シーニャとおれだけで行くか!」
「ウニャッ! シーニャとアック、いつも一緒! アックと一緒なら行くのだ」
「……そういう訳だから、ルティはここで――」
「いやあぁぁぁぁぁ!? アック様、わたしを置いて行かないでくださいいいいい!!」
もちろん冗談のつもりで言った。
――とはいえ、必死になってしがみついて来たので、またしても泣かせてしまったのは反省点だ。
「それじゃ、行くぞ」
「ウニャ!」
「あうぅっ……あんまりじゃないですかぁぁぁ」
「さっきのは冗談、冗談だったから」
最初の滝つぼとは状況が異なり、シーニャとルティは迷うことなく川へ飛び込んだ。
そして彼女たちが飛び込んだのを確認した後、どんな奴らがここに向かって来るのかを確かめることにした。
もちろんおれだけが残るのではなく、敵もしくはその連中向けに霊獣を見せつけるだけだ。
自分の装備一式に宿っている精霊や霊獣は、すでに実体化しなくなっている。
だが一時的ならばその姿を具現化することが可能なため、こういう時にだけ使うことが可能だ。
しばらくして、十数人程度の人間たちがリオングゲート付近に近付く。
「くそっ! 逃げやがったか? おい、魔導士どうなってやがる?」
「節穴すぎる。そこにいるのが例の敵では?」
「ぬっ!? 男じゃなくて、あれはどう見ても……ちぃぃ、まぁいい。生け捕りだ!!」
「くだらない。ここに残るような愚かな相手じゃないというのに、これだから傭兵風情は……」
聞こえて来る声の一人には覚えがある。
そこに来ているのはほとんどが傭兵連中のようだが、手引きの魔導士もいるようだ。
声を聞く限りでは、ザヴィ遺跡で戦った女魔導士のようにも思える。
女魔導士以外は雑魚だが、霊獣の正体もすぐに見破られるはず。
そういう意味でも、ゲート前に残る意味は無かったといえる。
時間稼ぎにもならないが、霊獣に任せておれも川に飛び込んだ。
ルティたちに遅れて飛び込んだが、それほど激しい流れでも無かった。
そのおかげで、川の最終地点らしき場所に着いたのはほぼ同時だった。
「ぷはぁっ! ここが上流か?」
「ぶへぇぇぇぇ……またしてもびしょ濡れにいいい」
「もう慣れたのだ」
着いた場所は水路とかではなく、地上に似た場所のような感じだろうか。
辺りを見回すまでもなく、目の前にはこけだらけの古びた小屋が建っている。
「シーニャとルティはそこで服を乾かしてていいから、大人しくしててくれ」
いきなり襲撃されるような場所には思えない。
そう考えると、今のうちに彼女たちを休ませるのが最適だろう。
「分かったのだ!」
「はひぃぃ」
こけだらけの小屋に近付き、ドアノブを回そうとすると内側から突然開き、中へと引っ張られた。
強力な強さではなく、不意に引き込まれた感じだ。
「どこの誰かと思っていたが……おおっ! お前はアックか?」
「もしかして、ジオラス!?」
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