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第十七章:遺跡群

339.リオング水路 ②

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 ルティとシーニャ、どちらも水に入ることに抵抗がある。
 魔法で誤魔化すという手も考えられたが、試したところ今の時点で属性にかかわらず発動出来ない。

 中に進んだら制限も緩和されるはずだが、とにかく今は飛び込めということだろう。
 先に行ったミルシェたちとはぐれても問題だ。

「しょうがないな。シーニャはおれの背中に掴まれ! 密着すれば水のことは気にしなくなるはずだ」
「ウニャ? アックに?」
「そうだ。身に着けるものと同じようにくっついていい」
「分かったのだ! パンツのようにくっつくのだ!」

 何故そういう発想になるのかは不明だが、シーニャはかなりの力でくっつき出した。

「あのぅ~……アック様。わたしは~?」

 水に耐性があるはずのルティが水を嫌うのは、召喚士との戦いが関係している。
 広い海で放置して泣かせてしまっているだけに、ルティだけは特別扱いをしなければならない。

「ルティ。君はここだ」
「はぇ? アック様の手の上……ですか!? 小さくなれませんよぉ~?」
「そうじゃなくて、とにかくこっちに来て」
「わ、分かりましたです」

 こういう時にシーニャに見られでもしたら、すぐにでも喧嘩が始まりそうだ。
 しかしシーニャはおれの背中に密着し、顔を背中に押し付けているので問題は無い。

「そしたら、おれの右手を枕だと思って傾けてくれ」
「こ、こうですか~? はひゃいっ!? な、なななな……何ををを~」
「何って抱っこに決まってるだろ。頼むから暴れないでくれよ」
「はふぅぅぅ~」
「よし、行くからな」

 二人を確実に固定して、滝つぼの中に飛び込んだ。



 それほど抵抗の出来ない水流でも無かったが、おれたちはどこかの水路に流れつく。
 アンブラダンジョンの中に入ったようで、魔法文字ルーンはここを"リオング水路"と示した。

 耐水があるとはいえ、視力が回復するのにやや時間がかかる。
 今のうちに現状を把握しておく。

 まず今の状態だけで判断すれば、おれは仰向けになっている状態のようだ。
 さすがに水流に身を任せていたことで、ルティは手元から離れている。

 背中に引っ付いていたシーニャも、水圧で離されてしまったらしく背中にはいない。
 肝心のミルシェたちの声が聞こえて来ないところを見れば、近くにはいないと見るべきか。

 手足を動かすのに問題は無い――ということで、まずは足を動かしてみる。
 どうやら、左右どちらにも何かが当たっている感じでは無さそうだ。

 そして次に右手と左手を動かす。
 ――しかし、どちらの手からも生暖かくて何やらムニムニした感触があった。

(もしかして、スライムにでも捕食されているんじゃないよな)

 感触だけでは確かめようも無いが、とにかく何度も手を動かし続けるしかない。

「フ、フニャ……」
「ひゃっ! ほへぇぇぇぇ~……こ、困るです。困りますです……」

 スライムが何かをしゃべっている――はずも無く、視力が回復したので左右に首を動かした。
 するとどちらとも仰向けになっていた、彼女たちの姿がそこにあった。
 
 自分の両手は見事に、彼女たちの胸に手を置いている。
 気付いた所で、かろうじてルティに置いていた手を瞬時に離すことが出来た。

 だがシーニャに置いた手が、強い力で押さえつけられているようだ。

「……シ、シーニャ? それはだな……不可抗力というやつでわざとじゃなくて……」
「ウゥ……アックは立派なオス。シーニャ、分かっている。でも、ドワーフにもやった。シーニャ、アックにお仕置きする!」
「お、お仕置き!? シーニャ、ちょっと待っ――ぬわっ!?」

 シーニャに左手をがっちりと押さえられ、そのままの勢いでぶん投げられた。
 なまじ相手がシーニャなだけに、抵抗はしなかった。

(んっ? 着いたのか)

 背中がどこかに当たった。
 つまりどこかの地面に着地したことを意味するが、もちろん痛みは無い。

「ああぁっ!! アック様っ! 大丈夫ですか~?」

 上の方から心配そうなルティの声が聞こえて来る。
 ――ということは、水路の下層にでも投げ飛ばされたのだろうか。

「今すぐそちらに行きますです~!」
「ウニャ、シーニャも行くのだ」

 おれをぶん投げたことで、シーニャの機嫌はすぐに直ったようだ。
 二人がおれの元に降りて来る前に、周りの状況を確かめることにする。

 シーニャに飛ばされ落ちて来た所は下層なのか、水の流れがあまり騒がしくない。
 一本道になっているようで、水路のあちこちに橋が架かっている。 

 上に上がれないことも無い。
 ――のだが、そこまで複雑なダンジョンという感じでも無さそうだ。

 もっとも、さっきまで寝転がっていた場所は、地上に近い所だった可能性がある。
 そうなるとミルシェたちの行方が気になるが――
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