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第十七章:遺跡群
326.イグニスダンジョン 上層攻防戦③
しおりを挟む目に見える形で――ここでこいつらを全滅させるのは簡単なことだ。
だが魔法防御だけが強いという認識を改めさせる為にも、生き残らせて本隊に伝えてもらうことにする。
近接戦闘が得意な傭兵ばかり集めても、何の脅威にもならない。
そのことを知らしめておく。
「デバフ効果がついた武器ってのは、興味があるが……こっちもおたくらと似たスキルがある。バフの持続効果ってやつだが、これを上書きしてもいいか?」
装備している防具の恩恵を受けているに過ぎないとはいえ、スキルの重ねがけは不可能じゃない。
はっきりと力の差を見せつけてやった方が、連中のためにもなるはずだ。
「パッシブスキルだぁ? 卑怯野郎だったわけか。――ってことはそれがかかってる限り、オレらが何をしようが無駄じゃねえかよ!!」
「ガキがふざけたこと抜かしてやがる!! スキルなんぞを重ねたところで、強さの質が上がるわけねーだろーが!」
「ハッタリ野郎が!! オレらが見てぇのは、てめぇのふざけたバリアだ! 今すぐそれを解除しやがれ!!」
バリアなんてものは無いのだが、目に見えない物理無効を説明するのは難しい。
「仕方ない……、体の力を目一杯まで抜くから、試しにその剣を目の前で振り下ろしてくれないか?」
まずは全身から力を抜き、防御力を下げる――ように見せつける。
そうすればおれの言葉通り、片手剣を手にしている男たちが試し斬りをしてくれるはずだ。
物理無効そのものは消えないが、風圧で当たったような感触を作り出す。
攻撃が通じるということが分かれば、恐れずに思いきり踏み込んで来るだろう。
その時を待って、奴等の武器を魔剣に喰わせることにする。
奴らの剣がおれの体に突き刺さるように見せる為にも、誤魔化しの霧を出しておく。
「お、おい、どうするよ?」
「見りゃあ分かんだろうが! こんな気の抜けた構えをしたってことは、観念したってことだ! これなら、ガキに対してデバフがかかりまくるだろうぜ!!」
「やってやるぞ、くそが!」
――などなど、短刀持ちの男以外がまとめてかかって来るらしい。
一斉に襲い掛かって来る前に左右の手で握り拳を作り、腰の辺りで適当な構えのポーズを作り出す。
「けっ、抵抗のポーズをしたって、今さら遅え!!」
七人のうちの一人が突出して、おれの正面に立った。剣を頭上から垂直に振り下ろして来るようだ。
残りの男たちは、左右に散らばって側面から斬り込みを図るつもりらしい。
「う、うおおおおおおお!!! くたばりやがれーーー!!」
右と左の側面の攻撃に合わせるように、正面の男が剣を振り下ろして来る。
その直後、奴等の剣はものの見事におれの全身に突き刺さった。
痛くもかゆくもないが、悲鳴だけでも出しておこう。
「ぐ、ぐうぅぅ……!!」
間近の奴らは手ごたえを感じたのか、ニヤリとしながら突き刺しの剣をさらに深く押し込んで来る。
短刀持ちリーダーの男からは、全員の攻撃が全て命中したように見えているはず。
「へへ、へへへへへっ……! や、やった! ざまぁねえな!!」
「ズブズブと突き刺さりやがったぜ!」
「こ、こんなもんかよ」
どうやら満足してもらえたようだ。
そう見えているだけで、実際は風で作り出した真空の壁で受け止めているだけに過ぎない。
わざわざ近接攻撃を当てさせたのも理由がある。
魔剣ルストは敵の武器を吸収するわけだが、ルストはフィーサとの争いでずっと大人しいままになっていた。
それもあったので、敵の剣を間近で感じさせ、強引にでも目覚めさせる必要があった。
その甲斐あって、ルストは奴らの剣をことごとく喰い出した。
腰にぶら下げたままだと見境なく喰いそうなので、地面に放って矛先を向けさせることにする。
「――ひぃぃぃ!? ば、化け物だぁぁぁぁぁ!!」
「剣が、オレの剣があぁぁぁぁぁぁ……」
「バ、バカな……突き刺したはずなのに、き、効いてねえってのか!?」
腰を抜かしたまま、連中は後ずさりを始めた。
その視線は魔剣に向いていて、もはやおれではなくなっているようだ。
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