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第十六章:エンシェント・エリア

319.魔剣と神剣 後編

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 フィーサたちとようやく再会出来る。
 ――そう思っていたのに、その場所に近づくにつれシーニャとミルシェが更に激しく慌てふためき出した。

「危ないのだ、危なすぎるのだ!! アックはこれ以上進んだら駄目なのだ~!」
「駄目です、駄目ですわ! きっと良くないことが起きる前兆なのでは――」

 彼女たちしか気づかなかった魔剣の震えは、おれにも分かるようになった。
 さすがに魔剣自らが音を出して激しく揺れ出せば、身に着けている身としては無視も出来ない。

「むむ……、これはただ事じゃなさそうだな」

 噛みついて来るといったことにはならないと思われるが、勝手に振り回しそうな気配がある。
 二人があまりに怯えているので、腰から外して手に持つことにした。

「アック様~! この先の大広間にいます!! フィーサとアヴィが――あれっ!?」

 嬉しそうなルティの声が届き、地下から上に上がってすぐの大広間に近付く。
 そう思っていたが――

 何故かおれの目の前には、剣を手にしたアヴィオルがいて彼女に剣を向けていた。
 しかもお互いの剣で、火花を散らしている状況にあった。

「あわわわっ!? えぇっ? イスティさまがどうしてっ!?」
「アヴィオルか!」
「ど、どうしてフィーちゃんに斬りかかっているの!?」
「それはこっちが聞きたい! くっ、ルストが勝手に……」

 何故か一瞬で別の部屋に移動していたようだ。
 目の前にはアヴィオルがいて、フィーサを手にしている。

 フィーサからは何の声も聞こえて来ない。
 それもそのはずで、声を出す間を与えないくらい、魔剣ルストがフィーサを強い力で押し続けている。
 
 ギギギギと音を出したつばぜり合いが続いているが、攻撃が収まる気配が無い。

「どうすれば止まるの~!?」
「せめてフィーサが人化すれば!」

 手にしている剣同士が勝手に動いているだけに、どうするべきか。
 そう思っていたら、ルティたちが部屋に入って来た。

「あーー!! アック様、何してるんですか~!? フィーサをいじめちゃ駄目じゃないですか~!」
「どうしてフィーサと戦っているのだ?」
「……いなくなったかと思えば、そういうことですのね」

 どうすれば解決するのか、ミルシェだけは知っていそうだ。
 なったことが無い状況だし、彼女に聞くしかない。

「ミルシェ!! 何か策は無いか?」
「そのままお手を離されては?」
「何っ? しかしそれだと……」
「えぇ? 離しちゃっていいの~?」

 離したところで、剣同士の戦いが永久に続きそうな感じだ。
 しかしそうするしか無いのか。

「そのままではアックさまもお力を使えませんし、そうした方がいいかと」

 ミルシェの言うとおり、魔剣ルストの動きは一向に止まる気配が無い。
 フィーサと違い、魔剣はおれの魔力を介して力を倍増する剣だ。

 尽きることの無い魔力を注がれていては、いつまでたっても攻撃が止まることが無いだろう。
  
「分かった。そういうわけだ、アヴィオルもフィーサを手から離してくれ」
「そうするね~!」

 特に掛け声を発しなかったが、おれとアヴィオルはほぼ同時にそれぞれの剣から手を離した。
 するとその直後、魔剣ルストは力が抜けたように床に落ちていた。

 そしてフィーサの方は――

「ひどいなの、とんでもないなの!! イスティさまが浮気者なの~!」

 人化した状態で、怒りながらおれに体当たりしまくっていた。
 どうやらフィーサが人化したことで、魔剣の攻撃が止まったらしい。

「……それは違うと思うが。まぁ、何というか……ごめんな、フィーサ」
「途中まで一緒にいた小娘も勝手にいなくなるし、置いてけぼりにされる身にもなって欲しいなの!! 全く全く、イスティさまは自覚が足りなさすぎるなの!」

 ふとルティの方を見ると、まごまごした表情で気まずそうにしている。
 フィーサの怒りはもっともなことで、おれの体を叩きまくっているフィーサに何も言えない。

 ――言えないが、状況を整理する為に話をすることにした。

「置いてけぼりにしたことはごめん。これは本当におれが全面的に悪いというか……」
「ふんっ! なの」
「と、ところで、どうして魔剣とああなったんだ?」
「イスティさまの浮気だからに決まっているなの!! それ以外に無いなの!」

 浮気はともかく、気付いたらフィーサの所に移動していた。

 まるで金属同士が引き寄せたような感じだったが、ルストにも"シュレイン"のようなスキルがあるということなのだろうか。

 魔剣ルストはフィーサと違って、意思疎通が出来そうな感じには見えない。
 何にしても、フィーサをなだめて聞いてみるしか無さそうだ。

「アックさま。エルフの問題もありますし、小娘を甘やかすのも程々に」
「そ、そうだな」
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