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第十六章:エンシェント・エリア
312.好戦的彼女との再会
しおりを挟む「ルティ、話は後だ! 矢に当たらないように物陰に隠れてろ」
「はいっ!」
「アックさま、あたしは水壁でも展開しておきますわね」
「頼む」
大騒ぎするほどの矢が飛んで来ているわけじゃないが、魔法と違って急所を狙われると厄介だ。
爪で矢を叩き落としているシーニャでも、一歩間違えば致命傷を負う危険性がある。
彼女たちはおれと違って、ダメージを負わない体ではない。
それだけにあまり無茶はさせられない事情がある。
「ウニャ? アック、アック!」
「ん?」
「アックの方にだけ飛んで来てる気がするのだ。どうすればいいのだ?」
シーニャの言うとおり、確かに飛んで来る矢の軌道を見ていると、おれだけに飛んで来ているように見える。そうなると敵の狙いはおれ一人だけということになるが、個人的な恨みでもあるのか。
「……シーニャ。ここはいいよ。おれが全部受けるから」
「分かったのだ!」
シーニャを後ろに下がらせ、前面に立ちはだかることにした。
矢が一定間隔で飛んで来ているところをみれば、敵は一人だけのように思える。
それならここは、敵の意思とは別に引きずり込むだけだ。
「我が前に引きずり込め! 《シュレイン》!」
複数の敵が相手だった場合、シュレインはあまり使い勝手がいい魔法じゃない。
しかし仮に複数いたとしても、不意をつけるという意味ではいくらでもやりようはある。
「――っ!? ひ、卑怯な奴め!!」
「んっ? お、お前は……サンフィアか!?」
「ふん、ようやく気付いたか、腑抜けめ!」
ああ、だからおれだけを狙っていたのか。
確かサンフィアは幻霧の村で修業をしていて、そのうちどこかで会えるということだった。
それが何故こんな遺跡の中で遭遇するというのか。
「あれーー! サンフィアさんじゃないですか!」
「……やはりここにいたか。勝手にいなくなったうえ、アックに合流していたとはしたたかな女め」
「ご、ごめんなさぁい! 途中で道に迷ってしまったので~」
「まぁいい。ここで再会出来たということは、お前にもアックにも意味があるはずだ」
ルティとは先に出会っていて、ルティだけが遺跡に迷い込んでしまったと見るべきなのか。
何にしてもやはりサンフィアは好戦的だった。
「ここへはお前だけか?」
「両手剣の小娘と竜は来ていない。アレらは地下に行きたくないようだからな!」
「フィーサとアヴィオルのことか?」
「そうだ。アレらについては、そこの娘に聞け! 我は貴様に会うために来たのだからな!」
どうやらルティは、フィーサたちとどこかにいたらしい。
サンフィアだけが後から合流したような感じだが。
「ウニャ! お前危ないのだ!! 敵じゃないのに矢なんて飛ばすななのだ!」
「……ふん。あんな威力の無い矢を防ぎきれないようでは、アックには不要なのではないのか?」
「ウウゥ!」
どうやらネーヴェル村での修行を終え、実力が上がったらしい。
それに加えて、以前よりもキツい物言いになったのは気になるが。
サンフィアの話では、フィーサとアヴィオルだけはここについて来なかったようだ。
そうなるとどこか別の所にいて、そこで待っているということになる。
「アックさま、どうされます? あのエルフはともかく、何だか歩みが遅い気がしますわ」
ミルシェの言うように、この先の進みを何とかしなければならない。
入った当初は罠さえ気を付けていれば、ザームの連中と鉢合わせになるのも早いと思っていた。
しかし想像以上に広いうえ、行く手を阻むかのように現れるディルアの存在が厄介だ。
今のところ脅威は感じられないが、本当の敵と会わないような罠に、まんまとハマっている。
今さらレイウルムに戻ることは難しいし、どうしたものか。
「ここに来てサンフィアが加わったのはいいとして、ザームの連中と一度も遭遇していないのが気になる。魔導士は別行動のようだし、ジオラスの行方も分からないままだ。どうしたものかな……」
フィーサたちのことも気になるし、ルティに話を聞いて決めるとしよう。
「……あたしは、あのエルフが好きではありませんわ」
「まぁ、それは……」
仲良くしろというのは難しい。
それに、村とされるこの場所にサンフィアが現れたことも気になる。
「この場所に現れたにしても、都合が良すぎる話ですわ」
「……確かに」
「決めるのはアックさま次第ですけれど、あたしはひとまず、小生意気な小娘たちがいる所に行くのがいいと思いますわ」
「そうなるとルティを頼るしか無いか」
「魔石のこともそうですけれど、遺跡の中に居続けるのは何か嫌ですわ」
ミルシェには何か予感があるようだ。
このままではルティのように、遺跡の中を意味も無く彷徨ってしまいかねない。
そうなるとまずはルティから話を聞くとして、ここのことはそれからにするか。
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