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第十六章:エンシェント・エリア
303.人工通路とあふれた魔石
しおりを挟む「ウニャー……魔石だらけなのだ! ここは何なのだ、アック」
おれたちは逃げて行った三人の男たちを追って、ザヴィ遺跡とされる場所に来ている。
――と言っても敵の姿はもちろん、魔物にすら遭遇出来ていない。
地下都市レイウルムの奥に人工的な通路があって進んで来たが、大して進んでいないのが現状だ。
剣士デミリスによれば、相当歩き進まなければ遺跡とされる所にはたどり着けないということらしい。
遺跡にはかなりの罠が仕掛けられているらしく、侵入者が来た時点で何かしらの罠が発動する仕組みだとか。
つまり罠にかかった場所からが遺跡の入り口のようなものであり、罠も無く進んでいるうちは、遺跡にすら到達していないことを意味する。
「地下都市からさらに地下にもぐるとはな……」
レイウルムは砂地の地下にあって、元々地上からの日の光を仰ぐことは出来ない場所だ。
しかし遺跡に向かって進んでいる両側の壁面からかざされているのは、日差しそのもののような感じを受けている。
「こんな使い方があるのですわね」
「……そうだな」
遺跡にすら到達していない人工通路は、明らかに人の手が入っているように見える。
その最たるものが、壁面に埋め込まれている魔石だ。
魔石から日差しに似た光が当てられているが、照明の役割として埋め込まれたものと判断した。
一見すると、まるで遺跡への侵入を阻むかのようだ。
だがおれが持つ魔石と違い、魔力を持つ石では無くあくまで光を照らす為に使われているようなので、特に気にすることなく進んでいる。
「眩しいのだ! ウニャ」
「――っと。やはり厳しいんだな、シーニャ」
「アックに掴まっていれば進めるのだ。光が途切れたら言うのだ。ウニャッ!」
魔石の使い道に感心していたが、シーニャはあまり得意では無さそうで何度も目を覆ったり、おれの腰に何度か体当たりを実行しまくりだ。
「……甘やかしすぎなのでは?」
「シーニャは出会った時から魔石が苦手で、蹴ったりしていたからな。仕方ないと思うぞ」
「認めたくありませんけれど、虎娘の方があたしよりも力が上ですわ。それなのに光は苦手とか、それはそれで問題なのでは?」
実力的なものはともかくとして、光を脅威に感じるのは獣として仕方が無い部分かもしれない。
それが魔石からの光ならなおさらのことだ。
それにしても、途切れることの無いあふれた魔石の通路が続いている。
文明遺跡ということは、当時は魔石が豊富にあったということなのだろうか。
「そこはまぁ……」
「まぁいいですわ。それにしても、光を放つ魔石を見ていると宝石のコーラルを思い出しますわね」
「コーラル?」
そういえばミルシェがかつて水棲怪物だった時は、宝石に目がない感じだった。
今でもそうだとはいえ、何故そこまで執着していたのか。
「ええ。あたしがいた海底神殿には、ホワイトコーラルと呼ばれる宝石がいくつもありましたわ。白くて透明な光を放つ宝石は、あたしを穏やかにさせたものでしたの」
ミルシェがいた海底神殿には目ぼしい物は見当たらなかったが、よく探せばあったのか。
もっとも当時は、そんな余裕も無かったわけだが。
「今は魔石を見ても心が乱れないんだな?」
「乱れてもいいなら、アックさまにだけ乱してもいいですわよ?」
「――え」
「フフ、虎娘がいないところで……の話ですわ」
全く話に加わって来ないが、シーニャはずっとおれの腰に顔を押し付けたままだ。
器用に足だけ動かしていて、歩きながら眠っている感じさえ受ける。
「はは……ところで、イデアベルクに置いて来たルティたちなんだが、どうすればいいと思う?」
「どうすれば……というのは?」
「まさか遺跡に進むことになるとは思っていなかったからな。ルティなんかは、ずっと泣きまくっているんじゃないかなと」
もう泣かせてはいけないと決めていたのに、中々難しいものだ。
目覚めたばかりのフィーサにも謝らないと。
「つくづくルティにもお甘いですわね。ルティはともかく、小生意気な小娘……フィーサが黙って留まるとでもお思いですの?」
「フィーサが動くってことか」
「ええ。それに、イデアベルクに残った者たちの方が、制限なく動けますわ。それこそ、あたしたちよりも先に動いているに決まっていますわね!」
「そ、それならいいんだけどな。いや、動いていたらいたで心配にはなるけど……」
何たってルティとフィーサは仲が良くない。
たとえ精霊竜アヴィオルが一緒に動くにしても、アヴィオルはルティの精霊だからフィーサともぶつかりそうな気がする。
それだけに、イデアベルクにいる誰かが力を貸してくれればいいのだが。
「アックさま! 魔石の数が減って来ましたわ。遺跡が近いのでは?」
「そ、そうだな。じゃあそろそろか」
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