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第十六章:エンシェント・エリア
297.人質包囲突破戦
しおりを挟む「ミルシェ、町の様子は?」
「奥の方に多数の人間が捕まっていますわ。こんな地下に町が広がっているのも初めて見ましたけれど、武器を取り上げている割に、敵の数は多くありませんわね……」
「ミルシェは初めてだろうけど、ここは盗賊を生業としている連中が暮らしている町だ。だが悪い連中じゃない」
レイウルムをよく知るのは、この場にいないルティだけになる。
シーニャは剣士だけには心を開いたようだが、人に対しての警戒心は健在だ。
「ウウゥ、やっつけてやるのだ」
「合図を出すまで我慢だぞ、シーニャ」
「ウ、ウニャ」
そうなるとミルシェが適任か。
人質救出と突破――そこからの不意打ちで問題無いはずだ。
「――それで、この町の人間とはどういう関係が?」
「ルティもおれも世話になった人たちだ。盗賊スキルもここで得られている」
「盗賊……? へぇ……それは興味深いものがありますわね。フフ……」
ミルシェに興味を持たせれば、多分真面目に動いてくれる。
そうなるとここの説明が必要か。
まずは人質と敵の位置を探ることにする。
「――ふむ……」
建物部分はほとんどが住居になるが、武器を磨く為の小屋もある。
ここから最小範囲スキャンをした感じでは、建物内に人の気配は無い。
恐らく下手な動きをさせないように、人質を一か所に集めているはずだ。
人質の数に反して、確かに敵の総数は少ない。
「まだなのだ? アック」
「全く、虎娘は辛抱が足りませんのね。アックさまは今、探っている状態。大人しく待っていれば?」
「お前こそ黙れなのだ」
実力がそこそこある奴らだけを残して、海底遺跡とやらに人を割いているとみた。
人質の中にはあの時の剣士の反応があるが、その兄のジオラスが見当たらない。
案内役として駆り出されている――といったところだろう。
そうなると、ここにいる奴らよりも力が強い奴が従えている感じか。
「ミルシェ。水属性の防御魔法を見える範囲……そうだな、建物を全て覆うつもりで放ってくれ!」
「――あ、相変わらず厳しいことを……。いいですわ、力も多少戻りましたし何とかしますわ」
「それと出来れば――」
「人質に近い敵をひきつけておいてくれ。なのでしょう?」
「ああ」
さすがミルシェだ。理解が早くて助かる。
「よし、シーニャはおれと一緒に敵が固まっている所に突っ込むぞ!」
「全部やっつけていいのだ?」
「痛めつけてやれ!」
「――ウニャッ!!」
人質を拘束している敵の中には、魔法系の人間は見当たらない。
小部屋の傭兵もそうだったがザームから来ている敵の中でも、特に魔力を必要としない者だけを送り込んで来た感じだ。
「……いいですわよっ! アックさま!」
合図と同時に、おれとシーニャは敵がまとまっている所に突っ込んだ。
ミルシェの水魔法は守りに長けている。その特性を使い、限られた地下空間の天井部分からすっぽりと覆う範囲内で、水の壁を展開した。
さらには人質に近い敵に対し、目を回すような混乱の効果も発揮させてくれたようだ。
その効果は絶大で、敵から怯えていた人質たちが一気に緊張を薄れさせている。
その様子を確かめつつ、一足先に突っ込んだシーニャが不意打ち攻撃を浴びせ始めた。
「ウウウゥッ!! 逃がさないのだ!」
シーニャの動きはとても素早かった。
元々の動きよりも格段に早く、武器の構えをさせる間もなく一人、また一人と倒している。
地下都市はいくつか自然に出来た岩の柱があり、そこを利用して敵に襲い掛かっているようだ。
爪攻撃を仕掛けるだけでも、全滅出来そうな勢いがある。
シーニャに遅れること数秒後、見張りとして立っている数人に対し、攻撃を開始した。
海底遺跡に近い位置に強い奴らを見張りに立てているようだが、数が少ない。
やはりほとんどが、この先の遺跡に向かっている。
シーニャが倒しまくっているのは、慣れない武器を手にした雑魚が数十人ばかり。
「――て、敵襲か!?」
――ちぃっ、傭兵どもは何をしてやがった!
そしてここにいるのは二、三人で、武器の形状を見る感じでは、ランクの高い奴らのようだ。
だがそれも、大して意味を為さない。
「ハッハハハハハ!! おい、見ろよ? こいつの剣、錆びてやがるぜ?」
――じゃあ大した事ねえな!
――こっちの武器はレアもんだしなぁ!! 余裕すぎる!
錆びた剣のことを言われると思ったが、やはり見た目だけで判断する敵に強い奴はいなさそうだ。
レアな武器だとして、どれくらい使えるのか試してもらうことにしよう。
「……大層な武器のようだが、それが通じるかどうか試してみたらどうだ?」
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