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第十六章:エンシェント・エリア

295.ザーム共和国への強制送還

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「なっ、何だこいつら――!!」

 騎士アルビンが持ち上げられなかった岩を粉砕し、おれたちは地下に通じる階段を下りた。
 そしてそこには、見張りに駆り出された傭兵らしき連中がいた。

 奴らと遭遇直後ということもあり、とりあえず奴らの出方を待っている。
 有利なのは逃げ道のある奴らの方で、こちらは上へ上がる階段があるだけだ。

 しかしここはまだ地下では無く、完全に下りきったわけではない。
 中間に位置する小部屋のような場所だ。
 
 シーニャとミルシェには、前もってすぐに手を出すなと伝えてあるが、小部屋だけあって自由に動ける範囲は少ない。

 侵入して来るとは予想していなかったらしく、簡易的なテーブルとイス、それに奴らの武器となる短剣や短刀などがその辺に散らかっている。

 交代制かどうかは定かでは無いが、人数にして七、八人程度しかいない。
 手持ち武器しかない所を見ると、魔法を放てそうな奴らでは無さそうだ。

「……ウウゥ! やっつけてやるのだ」
「ふぅ、アックさま。どうされます?」

 シーニャとミルシェの二人が動かなくても、どちらかが動くだけで終わる。
 地下都市にどれくらいいるのか分からないが、こんな連中相手には実力差を見せつけても仕方が無い。

 ――ということで、ここはおれがやることにした。

「二人は何もしなくていいぞ。ここの連中は、ザームに送り返すだけだから」
「ウニャ?」
「フフフフ、圧倒的な力と恐怖を与えるのですわね?」
「……そういうことだ」

 地上への出入口は、岩を砕いたことで開放されている。
 そのおかげで、そよ風程度の風が入るようになって来た。

 それが気に入らなかったのか、正面で武器を構えている奴らは突風を起こすかのようにして、おれに飛び掛かって来る。

「余計な真似をしやがってーー!!」
 ――たたっ斬ってやらあ!
 ――勝手に入って来るんじゃねええええ!!

 ――などと、一斉に向かって来た。
 こういう奴らばかりなら楽だが、それでも手加減する必要は無い。

「地下に閉じこもるのも退屈なはずだ。外の空気を吸わせてやるよ!」

 ここが小部屋のような空間で良かった。
 そうでなければ、地下の方にも影響が及びかねない。

 口元で簡単な言葉を呟き、いかにもといった動きを見せる為に、右手を上空に向けて勢いよく扇いだ。
 
「な、何だぁ!? 何で突風が……!」
 ――ぐあぁぁっ!!
 ――と、飛ばされるううう!
 ――ひぃええええ!! お、お助けええええ。

「ウニャニャ!? すごい風が吹き荒れているのだ! どこから来ているのだ!?」
「さすがですわ! さすがアックさま!!」
「飛ばされないようにどこかに掴まっていろよ」

 おれを目がけて突っ込んで来た連中だったが、風魔法をまともに浴びて地上の穴からあっという間に吹き飛んで行った。

 あの勢いならザーム共和国とまでは行かなくても、レイウルム半島の外にまで飛ぶはずだ。

「人間がいなくなっちゃったのだ……アック、何をしたのだ?」
「《ラファーガ強く吹くゲイル突風》だ。気持ちのいい風だっただろ?」
「アックさま、ラファーガというのは……?」
「神族国にいた風神の力だ。ミルシェはその場にいなかったが、いたら引っ叩いていたくらいのキザな男だったな」

 神族国家に行っていなければ、今のこの力は得られなかった。
 そう考えれば、行って良かったと言える。

 もっとも、あの国から得られた属性魔法の内、多用しているのは火の力と闇になるが。
 水と氷、特に水は元々備わっているせいか、神印もほとんど使うことが無い。

 光と闇についても、フィーサを使っての攻撃で威力を発揮する。
 ここではそこまでの戦いにはならないだろう。

「へぇ? あたしに言い寄るような男だったのです?」
「いや、ルティが大変だったな」

 本気かどうかは分からなかったが、ルティを嫁にしたかったらしい。
 しかし仮にあの国にいても、張り合いも無かっただろう。

「……それなら全くタイプが違いますわね。きっとつまらない男だったに違いありませんわ」
「ウニャ? つまらない男って何なのだ?」
「虎娘はアックさまさえ知っておけばいいんですわ!」
「お前こそ、水だけ飲んでいればいいのだ!! ウニャ!」

 シーニャとミルシェも、ルティのようになってしまったか。
 こればかりは、地上での行動がまずかったと言わざるをえない。

「ふぅっ、アックさま。とっとと進みますわ!! 虎娘の手綱はしっかりして頂かないと!」
「……あ、ああ」

 完全に相性を最悪なものとしてしまったようだ。

(ううむ、この先大丈夫だろうか)

「アック、アック~! アックの傍はシーニャが守るのだ」
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