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第十六章:エンシェント・エリア

287.覚醒の覚醒を果たす

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 まさか体内の痛みとは、こればかりは逃げられない。
 外からの攻撃には痛くもかゆくもないが、これは盲点だった。

 ――とはいえ、痛みはあるが耐えられないほどじゃない。
 要は耐えられれば得られるスキルというだけのことだ。

 久しくこんな目に遭っていないだけに、意表を突かれただけのことになる。

「ぬぅぅぅ……痛え……なんてこった」

 恐らくだがネローマさんもリリーナさんも、おれが痛みに耐えられず弱音を吐いたり醜態をさらけ出すことを予想して、さっさと引っ込んでしまったのだろう。

 だが、徐々にだが痛みに慣れて来た。
 ――というより、痛みそのものを抑え込んでいるといった方が正しいか。

「フフフッ、アックさま。痛みをも快感に感じているのではなくて?」
「ミルシェ? 何だ、ここに残っていたのか」
「もちろんですわ。あたしはアックさまの片腕ですもの。離れるわけには行きませんわ」

 用心深いミルシェのことだから、リリーナさんたちと一緒に行くことは無いと思っていた。
 しかし相変わらず趣味が悪い。

 ミルシェはおれを見下ろしながら、楽しそうに微笑んでいる。
 痛がっていた所も、きっと面白おかしく眺めていたのだろう。

 辺りは静寂を保っていて、おれとミルシェ以外に人の姿は感じられない。
 
 だいぶ痛いということを口にするほどでも無くなって来たが、それすらも望んでいるような表情をしている。

「ちなみにどんな痛みを感じるのです?」
「そうだな、複数の鋭い剣が何本も同時に刺さって来るような……そんな感じだ」
「……それは興味深いですわね」

 どういう意味で、とは聞きたくない。
 ミルシェは何だかんだで、冷静に能力的なものを見られるタイプだ。

 そういう意味で言ったはず。

「ふー……もうすぐだな」
「意外と毒への順応が早かったですわね。もはやアックさまは、人間をも超越してしまったということですのね」
「否定はしないけどな。だが痛みは感じるし、それに慣れることは無いぞ」
「そうなると、脅威となるのはあの娘の料理かしらね」

 ミルシェとシーニャがトラウマを抱えているのは、ルティが作った料理全般だ。
 しかしルティが作るあらゆる料理に慣れたせいか、そこまで怖さを感じることは無くなった。

 ルティのおかげということもあるのだろう。
 どうやら、覚醒の覚醒を果たすことに時間はかからなかったようだ。

「……よし、痛みは完全に抑えた。しかし、これで覚醒した感じには思えないが……」
「アックさまからあたしたちを覚醒する力だというのなら、そうなのでは?」

 おれでは無く彼女たちを覚醒するとなると、確かに何か別の力に目覚めた感じは無い。
 しかし受けた痛みは、何かの意味があるような気がする。

「ふむ……それもそうか。――う? 何か熱を感じる……これは魔法文字ルーンが出る時の熱さか!? ガチャをしてないのに……くぅっ……」

 痛みに耐えきったところで、いつもならガチャを引いた後に出ていた熱が突然出て来た。
 
「え、アックさま? どうなっていますの!? 何かあの、頭上から物騒なものが見えますわ」
「上から?」

 ミルシェが珍しく慌てている。
 どうやらおれの頭上に、何かが見えているようだ。

「あぁぁぁっ!? アックさま、突き刺さりますわ! 身構えた方が――」
「……え、何が?」

 おれからは見えていないが、ミルシェからはよく見えているらしい。
 そして――。

「ひ、ひぃっ!? み、見ていられませんわ!!」

 ただ事では無さそうだが、おれに何か突き刺さったのか。

「――へっ? け、剣……!? 痛みは感じられないが、これは何だ?」

 怖いもの知らずのミルシェでも、目も当てられない光景といっていいほどの無数の剣が、おれの体に突き刺さっている。

 しかし全く痛みを感じない。
 何が起こっているのか、もしかしてルーンから何か浮かんでいるのか。

 【斬撃の覚醒 範囲攻撃 指定攻撃 潜在:???の片手剣】

 これはおれ自身の覚醒なのでは。
 ルーンから見えたと同時に、突き刺さっていた無数の剣がいつの間にか消えている。

 ソードスキルとは別物のようだが、錆びた片手剣の覚醒に関係しているということか。

「ア、アックさま、もう大丈夫ですの?」
「ああ、問題無い」
「何ともありませんの? おかしいですわ、さっきは確かに……」
「おれも見えたよ。無数の剣のことだろ?」
「ええ。一体何が――」

 これも含めての覚醒だったのだろうか。
 何にしても、これでネーヴェル村での用事は全て果たせたということになりそうだ。
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