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第十六章:エンシェント・エリア
282.魔石彼女たちとの戦い ④
しおりを挟む「ウウウーー!! 敵、敵を倒す……倒すゾ」
魔石に精神支配されているせいか、シーニャの口調が昔に戻っている。
リリーナさんによれば、魔石は悪い心を持っていた時の力を利用して、一時的に記憶を戻しているのだとか。
そうだとすればシーニャとミルシェは、おれと仲間になる前の力も引き出せるということになる。
シーニャは出会った時からそんなに悪い虎でも無かったが、ミルシェは水棲怪物だっただけに厄介だ。
「シーニャ! 遠慮はしないぞ? いいな?」
「……ウウゥ!!」
言葉を話さなくするのは嫌な感じだ。
ワータイガーとしての本能がそうさせるのかもしれないが、早いとこ解放してやらねば。
「悪いなシーニャ。 お前の弱点である属性魔法で勝負をつけさせてもらうぞ! 《イグニス》!!」
火の神アグニの力を際限なく使えるが、"インテンスヒート"はルティに使っている。
それよりも抑えることになるとはいえ、炎属性に弱いシーニャには十分のはずだ。
「ウウウッ!! ウガウゥッ!」
「――な、何!?」
魔法を放った直後、軋む音が響いたと思ったら、炎がかき消されていた。
シーニャに向けて放った火の攻撃だったが、彼女はそれを自前の爪を軋ませて消火させたようだ。
彼女の爪自体に、そこまでの能力は無かったはず。
そうなると魔法による攻撃は、威力を問わず爪だけでかき消せるということになる。
元々の能力なのか、それとも魔石が潜在的な能力を引き出しているのか、今のところ分からない。
こうなるとあらゆる属性魔法を試したくなる。
シーニャは虎人としての身軽さを利用した爪による攻撃と、ガチャによって目覚めた回復魔法だけだと思っていた。
だが自前の爪を使って被魔法攻撃を防ぎかき消せるのであれば、弱点は解消されるといっていい。
「敵、敵、倒す……倒す」
ルティに関しては、魔石の覚醒が彼女を正気に戻す条件だった。
そうなるとシーニャは何が条件で戻るのか。
「――っと! よそ見をしてる暇は与えてくれないか」
シーニャの場合、おれの特性スキルでもある自然治癒が共有されている。
致命的なダメージを負わせない限り、彼女自身も傷を負うことが無い。
爪で魔法が消せる攻撃は、おれが魔法攻撃を体力の続く限り撃てばいずれ当たる。
しかしその時にはシーニャの体力が尽きてしまう。
そういう勝ち方は公平じゃない。
魔法攻撃が通じない上、武器使用が駄目となると、アレになるしかなさそうだ。
スキルの一つではあるが、ここで使うことになるとは。
フェンリルの爪で肉体を硬化させ、相手からの攻撃を無効化して行動不能にする――だったか。
シーニャの能力を使用出来る条件は、行動不能時ではあるが意識を乗っ取られているし使えるはず。
しかしネーヴェル村で獣化することになるなんて。
「獣化スキルを解放!」
リリーナさんとの意思疎通が出来るか分からないが、まずはシーニャだ。
「ウウウ……ウニャッ? どこのフェンリルなのだ?」
「聞け! おれはフェンリルじゃない。おれは、シーニャのボスだ」
フェンリルに見えているということは、やはり彼女に勝たなければいけない。
そうでなければおれへの意識は戻って来ないはずだ。
「ボス? シーニャが認めるのは、シーニャよりも硬くて強いボスなのだ! オマエ、弱そうなのだ。戦うというなら相手をしてやるのだ!」
やはりそうか。
彼女からもう一度力を認められて、改めて従わせなければならないということになる。
「……来い、シーニャ!!」
「シーニャと気安く呼ぶななのだ!」
彼女はフェンリルとなったおれに向かって来た。
爪を交互に繰り出し、腕をクロスさせて、おれの防御を剥がす勢いで連続攻撃をし続けている。
だがおれはその全てを無効化した。
そうなると後は、シーニャの息が上がるのを自然に待つだけになる。
これなら、彼女の心を折れさせることが可能だ。
おれから攻撃を繰り出すことなく、降伏させられる。
――そう思っていたが、シーニャの体力が一向に衰えない。
これも魔石によるものだとすれば、魔法の時と同じ結末になる。
しかも無効化しているはずの彼女の爪攻撃が、わずかながらに強化されている感じだ。
【シーニャの爪 斬撃Lv.2 防御力無視、魔法攻撃をかき消す】
「む、これは――覚醒か?」
「ウニャ、ウウニャ……ま、まだ倒れないのだ? シーニャの負けでいいのだ……」
「――! それならば、おれに従うか?」
「ウニャ。シーニャ、オマエのシーニャ!」
これはぎりぎりの勝利だったか。
まさか防御力も魔法も無視出来るとは、シーニャの爪は最強なのでは。
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