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第十六章:エンシェント・エリア

276.ネーヴェル村と消えたエルフ 4

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「――しばらくご一緒していなかったですけれど、あなたさまは、もはや敵無しの存在ですのね」

 おれの後ろを歩くミルシェが、あっけに取られたようでずっと驚きっぱなしだ。
 シーニャにとってみれば当たり前の光景なので、驚くミルシェのことを不思議がっている。

「驚くことでも無いのだ。ウニャッ!」
「あなたにとってはそうでしょうけれど、あたしはずっと離れていましたのよ?」
「ウニャ? じゃあそのうち慣れるのだ」

 ネーヴェル村での用が済んだ後、ミルシェが同行してくれるかは未定だ。
 それというのも、彼女は以前のような水棲怪物ではない。

 厄介な奴がいた時にどうするべきか。
 それとサンフィアを連れて行く以上、そこまで大所帯に出来ない問題がある。

「……それにしても、ネーヴェル村ではよほど短剣が余っているのか?」

 現在、見えない敵からこちらに向かって、短剣が投げつけられている。
 
 投げられて来る頻度からして複数の人間の仕業に違いない――のだが、全くその攻撃が止まる気配が無い。

 しかしそれも空しく、短剣は全ておれの手前の地面に落ちまくっている。
 ミルシェが言うように、おれには全くダメージが通らない。

 そもそも物理攻撃を無効にすることが出来るので、たとえ遠隔攻撃だとしてもおれに当たることが無いのが現状だ。

「どうでしょうね。鍛冶屋が見えていますし、失敗作でも投げられているのでは?」
「そうか、鍛冶屋か。しかし効き目が無いことくらい、この村の人は知っているはずなんだよな……特にあのリリーナさん辺りは」

 ルティの母であるルシナさんのお姉さんらしいが、素性は不明だ。
 当初ここに来る目的は、ルティを薬師にする為だった。
 
 そしてドワーフの村ということも聞いていたのだが――。

「魔石を奪って何をするつもりなのでしょうね」
「それは分からないが……何かの狙いがあるんだろうな」

 ルティの伯母さんにあたるリリーナさんは、変なことには使わないはず。

「アック、アック! 攻撃が止まったのだ」
「うん?」
「何も飛んで来ないのだ!」

 当たることのない短剣が、無残にも地面に散らばっている。
 投げ尽くしたか、あるいは諦めたか。

「ふむ……。何がしたかったんだろうな」
「ウニャ、張り合いが無いのだ」

 少なくともおれだけに狙いを定めていたのなら、意味のない攻撃だった。
 仮にシーニャやミルシェを狙っていたとしても、傍にいるのでそれも意味を為さない。

「何がしたかったのやら」

 目的がおれの実力を確かめるだけなら、ルティは何の為に連れて行かれたのか。

「アックさま! 誰か出てきましたわ!!」

 それまで特に人の気配が感じられなかった前方から、ようやく村人が姿を現わした。
 肉屋と鍛冶屋、それに小さい農場しか無いが、それなりに人はいたようだ。

「ウニャ、ドワーフとエルフがたくさん出て来たのだ」
「まぁ、ドワーフの村だしな。しかしエルフもいるとは驚きだ」
「アックさま……、見慣れた顔も混ざっていますわ」
「――ん?」

 目の前には人垣のような感じで、ドワーフとエルフがおれたちの前に立ち塞がっている。
 これではまるで、村に侵入して来た悪者として扱われている気がしてならない。

「ウニャ? ドワーフとエルフがいるのだ」
「……ルティとサンフィア!? ……確かに見えるな」

 サンフィアはやはり捕らわれていたのか。

「でも様子がおかしいですわね。どう見ても彼女たちを含めた村人は、あたくしたちを敵か何かと思っているのでは?」

 これもおれを試しているとしたら、本当に面倒な歓迎だ。
 しかもよりにもよって、ルティとサンフィアを使うとは。

「だから短剣を投げつけていたと?」
「ええ。幻と深い霧……恐らく、幻を見ているか見せられているかでは無いかと」
「――ということは、ルティたちが攻撃して来るってことか」
「恐らく……」

 ルティやサンフィアとは何度か戦ったことがある。
 しかし今のルティは、以前よりも相当厄介な強さになっているはずだ。

 おれはともかく、シーニャとミルシェでは少々分が悪い。
 魔法を使って力任せに解決するわけにもいかないし、こうなると相手の出方次第になる。

「シーニャ、ミルシェ! おれがルティたちを――」

 そう思っていたが、シーニャたちの周りに霧が出来ていておれとは隔たりが出来ていた。
 やはり個別に戦わせるつもりがあるらしい。

「ウニャ!! ドワーフはシーニャがやるのだ!」
「……あたしは頑固なエルフの相手をすることになりますわね……」

「ああ、くそっ! やはりそうなるのか」
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