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第十六章:エンシェント・エリア

274.ネーヴェル村と消えたエルフ 2

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「ええぇ? サンフィアさん、いなくなっちゃったんですか!?」
「どこに行ったのか分からないが、そのようだ……」

 ミルシェの話を聞く限りでは、途中までは文句を言いながらもついて来ていたようだ。
 辺りは霧深いが、魔物はいなく何かが起こったとは考えにくい。

 ましてどこかに隠れるような所があるわけでも無い。

「アックさま、どうされます?」

「フニャウゥ~……フニャ~」 
 シーニャはひたすらおれにくっついて甘えっぱなしなので、無理に意見は聞かないでおくとして。
 
 やはりここは、一番近くにいたミルシェの意見を聞いて判断するか。

 しかし村の入り口が目の前に見えているし、村に進んでみるという手もある。
 ルティなら何か知っていそうだし、まずはルティに駄目もとで聞いてみるか。

「ルティ! この辺のことはお前が詳しい。何か手がかりになるものは無いのか?」
「はぇ? 詳しくは無いですよー? あ! でも、もしかしたらー……」
「……何か思い当たるものが?」

 それにしても村の入り口にまで来ているのに、誰も出迎えない。
 認められた者しか入れないという掟があるからなのか。厄介な村だ。
 
「あー! もしかしたらなんですけどー、サンフィアさんって武器を手にしていませんでしたか?」

 ネーヴェル村は武器を手にしてはいけない――だったな。
 だがその話ならイデアベルクでしていたし、ミルシェもしつこく注意していたはず。

 そう思ってミルシェの顔を見ると、呆れた表情を見せている。

「それは無いですわよ。あたしは、確かに槍を取り上げましたもの」
「それもそうだな」

 その場面を見たわけじゃないが、ミルシェは厳しい女性だ。
 たとえ相手が誰であろうと、厳しく言い放ってくれる。

「――ですけれど、さすがに”内側”に隠し持っていたとしたら、そこまでは分からないことですわね」
「他にも武器を隠し持っていた――と?」
「ええ。それだと分かりかねますわ。アックさまだって、そこまで分からないのでは?」
「……そこまではな」

 護身用に短剣でも忍ばせていた、あるいはエルフの部下たちに持たせられていたか。
 そうだとしても、突如いなくなるなんてこの村は何かあるな。

 ミルシェと悩みながら話をしていると、気付かないうちに霧が晴れていたようだ。
 そしてミルシェとサンフィアがいた辺りには、サンフィアが着ていたエルフの布服だけが見えている。

「布服だけ――!? ま、まさか……」
「期待させておいて残念ですけれど、サンフィアは脱がされたわけではありませんわね」
「へ?」
「エルフは用心深い種族ですから、何着か持って来ていたのでは?」
 
 どうやら裸にされたわけでは無く、ストックの布服らしい。
 別に期待していた訳じゃなかったが。

「なるほど」
「それはともかく、彼女は何者かに連れ去られたのでは?」
「そう考えるべきだろうな……」

 状況が良く掴めないが、霧に紛れて複数の何者かが彼女をどこかに連れて行った。
 そう考えるべきだろう。

「アック様、アック様! とりあえず、村に行きませんかっ?」
「サンフィアのことはどうするんだ?」
「心配は心配ですが~……実はここは、時間が経つとまた霧が濃くなっちゃうんですよ~」
「――何? そうなると何かあるのか? 村はすぐそこだぞ?」
「大変なことが起きちゃうんですよ~! 

 ルティの言葉に半信半疑だったが、確かに晴れていた霧がまた出だしている。
 それもさっきよりも濃い感じだ。

「ウニャ、アック! ドワーフの言うとおりにするのだ! 毛が逆立ってるのだ。何か起きそうなのだ」
「シーニャも何か感じているのか」
「ウニャッ!」

 さっきまでおれにくっついていたシーニャだったが、嫌な気配でも感じ取ったのか耳をぴくぴくさせている。

 サンフィアのこともあるが、村が歓迎しているうちに入るしか無さそうだ。

「アック様、その前に魔石を~……」
「ん? 魔石を何だって?」
「魔石も危ない目に遭わせるかもなので、わたしが預かりますよ~!」

 こんなことを言うのは初めてだ。
 まぁ、ドワーフの村で何が待ち受けているか分からないし、ルティだから預けておくか。

 いつもなら人に渡したり預けたりしないのだが、両手を差し出すルティの手に魔石を乗せた。
 だがこれが間違いだった。

「はいっ頂きましたよ、アックさん!」
「――え? あ、おいっ!! 待てっっ!!」
「追いかけて来てくださいね! ルティちゃんもそこで待っていますよ!」
「――ちぃっ!! なんてこった!」

 霧が再び出た時点と、シーニャが気付いた時点で気付くべきだった。
 ルティの雰囲気も何となく変わっていたし、あれは間違いなくリリーナさんだ。

「アックさま。ルティはともかく、魔石を取り戻さなければなりませんわ!」
「あぁ、くそっ! 完全に油断した」

 魔石をごっそり渡してしまうとは。
 ルティもそうだし、恐らくサンフィアも捕まっているはずだ。

 何か起きるとは思っていたが、まずは魔石を取り返さなければ。
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