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第十五章:イデアベルク
265.エルフ自治区 イデアベルク再建編⑤
しおりを挟む再建中なのに侵略を企てている国があるなんて、一体どういうことなのか。
ウルティモが時空を司る者なのは、戦ったおれがよく分かっている。
しかし何故イデアベルクに攻めて来るのか。
「かの国がここを攻めるのは、残り一年も無いと見ている」
「一年……そんなに早く? 何故そんなことに……」
滅亡していた国が再建しようとしている。それを狙ってのことか。
仮にそうだとしても、どうしてここを襲うということになるんだ。
「ふむ。アックくんの反応を見るに、覚えがある国のようだ。ザーム共和国は血の気の荒い者が集まる国であり、常に高ランクの者をかき集めていた」
「それは知っている」
「故に、国内での争いも絶えることが無かったのだ。隣国も攻めていたようなのだが、邪魔をした者のいる国を盗ることに方針を変えたようだ」
「――邪魔をした?」
確かミルシェは偽王女となって、隣国のシーフェル王国で騎士と戦ったはず。
そこにはデーモン族を残したままだし、王国が攻め落とされることは考えにくい。
そうなると連中が支配力を強めるつもりで攻めに来るのは、遠方の大きな国ということになる。
イデアベルクは王国でも無ければ、人間が多く住んでいるわけでもないがそこを狙われたか。
「アックくん。君によってザーム共和国は、一時的にだが弱体をした。身に覚えがあるのではないか?」
やはりあの薬師の女が関係しているのか。確かに数多くの冒険者を征伐した覚えがある。
あの時はルティも怪我を負ったし、シーニャたちと離れ離れになっていたから大変だった。
「――つまり、おれ狙い?」
「うむ。われが見えた事象は、ここに侵略して来る人間の姿である。だからこその相談なのだ」
どこまで見たのかまでは聞かないが、まさかそんなことになるとは。
「おい貴様! 我のアックに虚言を吐くな!」
「ふむ、ではエルフが知恵でも働かせるつもりかね?」
「イデアベルクに人間どもが攻めて来るだと? フン、笑わせてくれる。我がエルフは、人間どもに屈せぬぞ!!」
おれとウルティモの話を黙って聞いていたサンフィアだったが、負けず嫌いの彼女のことだ。
将来起こる話など、信じるはずは無いだろうな。
「われに負けたことをどう説明する?」
「――貴様!」
今の状況を見ても、人間とエルフ、獣人族が分かち合うのは時間がかかりそうだ。
おれの責任が生じているのは確かでもあるし、行くしかないのか。
「ウルティモ。ここがある程度良くなるのを待ってからでも、遅くは無いか?」
「無論だ。われはその為に来たのだ。君の国に来た以上、守ると約束しよう!
今すぐのことでは無いとはいえ、ゆっくりしている場合でも無さそうだ。
それならある程度のことをやっておく必要がある。
「……それなら、サンフィア! 彼の所に案内を頼む」
「む? 兄の所にか? しかしこの男の言うことを真に受けるのは――」
「サンフィア・エイシェン! 言うことが聞けないのか?」
「――! 案内いたします。我が主」
威圧するつもりは無かったが、サンフィアには多少強く言わないと伝わらない。
エルフだけの地区にしたとはいえ、意見を全く聞かないようではこの先困る。
◇◇
「あれれ~? アック様? シーニャ?」
「……免許皆伝なのニャ。ルティシアには、ギルドの称号を与えておくニャ!」
「もしかして釣りすぎちゃいましたか?」
「ネコ想いのドワーフには敬意を表しますニャ。お魚いっぱい、ごちそうさまニャ!」
釣りギルドに置いてけぼりのルティは、おれたちが去った後もずっと釣りをしていたようだ。
魚を釣り上げ過ぎたことで、ネコ族からはますます慕われてしまったらしい。
「シャトンさん、アック様はどこにいるんでしょうか~?」
「アックなら空にいるニャ!」
「はぇ?」
「……もうすぐ忙しくなるニャ。後はミルシェから聞くといいニャ!」
「ミルシェさんですか!? え、どこどこ?」
おれの知らぬ間に、ルティに釣りスキルを抜かれてしまったようだ。
釣りをする時はルティを師匠と呼ぶことにするか。
「全く、相変わらずですわね。あたしはさっきからそこにいたというのに!」
ルティがあちこちと見渡していると、腕組みをしたミルシェがすぐ真横に立っていた。
どうやら相当長い時間ルティを待っていたようで、辺りはすっかり暗くなっている。
「あぁっ! ミルシェさん~!! 探しましたよぉ」
「――それはこっちのセリフですわ。アックさまをほったらかしにして、仕方のない娘ですわね」
「釣りが楽しすぎまして~」
「……とにかく、ルティ。今からあたしと向かってもらうわよ?」
「は、はいっっ!」
どこに向かうか伝えないままに、ミルシェはルティを連れてその場を後にした。
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