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第十四章:鳴動の大陸
256.時空魔道士ウルティモとの取引
しおりを挟む「あああ~!? アック様っ、あの男ですよ!!」
「……そのようだな。しかし――」
「ウニャ? どうして人間の隣にフィーサがいるのだ?」
氷漬けからどうやって助かったのかと思ったが、どうやらフィーサのおかげらしい。
奴の隣に何気なく立っているのが、何よりだろう。
「責任ってのはどういう意味だ? それと、動けるようになった理由を聞こうか」
「……そのままの意味だが? われは多くの竜をここに留めていた。君がここを知らずにいてくれさえすれば、それで済んだのだよ」
「知られたから責任を持ってどうにかしろと?」
「ここを知られた上、竜が赤毛の娘に懐いてしまった以上、もはやここに置いたままには出来ぬ」
「――それは理解したが、フィーサ……彼女に何をした?」
「われはその娘に助けられただけに過ぎぬ。故に、再びこうして君と話が出来ているというわけだ」
この場にはウルティモとフィーサしかいなく、他の連中の姿は見えない。
フィーサだけになった時に戦闘になった可能性があるが、そうだとしても何故奴だけなのか。
「ウニャゥ!! フィーサ、何とか言ったどうなのだ!!」
「…………」
「ウウゥッ! アック、フィーサがおかしいのだ!!」
「フィーサ~? 私の声が聞こえるです~?」
シーニャとルティが、しきりにフィーサに呼び掛けている。
しかし放心状態になっているのか、何一つ応えようとしない。
「ウルティモ! フィーサに何をした?」
「われは何もしておらぬ。われはその娘と話を交わし、ここに連れて来ただけに過ぎぬ」
「それなら何故彼女は、反応が無いんだ? あんたはその理由を知っている筈だ!」
「――われが目覚める前、辺りに潜んでいた魔導士……ザルクと数名が姿を現わした。氷漬けのわれを嘲笑いながらだ」
「転送遮断のあいつか」
「そうだ。アレたちの処理をどうするかと思っていたところで、アレたちがわれを破壊しようとしたのだ。君に氷漬けとされたのを好機とみたのだろうな」
おれがとどめを刺さずとも、仲間だった奴にやられそうだったわけか。
「……それなのに助かった。いや、彼女に助けられたってわけだな?」
「その通りだ。もっともそこの娘はわれに関係無く、初めから魔導士たちを全滅させようとしていたようだ」
「――フィーサが魔導士を全滅させて、あんただけが助けられたと?」
「うむ。われを殺すつもりは無かったのだろうな」
一人で残って見張ると言っていたが、それが狙いだったというのか。
それにしたって何故そんなことを。
「先に引き上げさせていた魔導士もやられたのか?」
「かろうじて逃げたとみえる。……それとわれの見立てになるが、そこの娘からは邪気が感じられた」
「邪気? 彼女は神剣だぞ?」
「そこまでは分からぬが、剣の主であるならば君が聞き出すべきだろう」
グライスエンド手前の温泉に浸かってから、おかしい感じを受けたが何か変わったのだろうか。
いずれにしても、グライスエンドから離れた方が良さそうだ。
「話は分かった。それで、ウルティモ……あんたはどうするつもりで姿を見せた?」
「アック・イスティ。われは君と取引を望む」
「竜に対する責任のことか?」
「……それも含め、われは末裔の存在たちを守りたいと思っている。すでにドワーフの子らをイデアベルクに送っているであろう?」
「――!」
「竜と末裔、それらを守るわれと取引をしてもらいたい」
戦闘魔導士はともかく、この男は末裔と竜を守って来た者らしい。
そういう意味での命の取引といったところか。
「……脅威を見せることは無いんだな?」
「無論だ。われは時空魔道士の末裔ウルティモ。末裔らを守る為の存在ぞ」
「――まだあんたのことをどうするかは決めていないが、守護が目的の取引ってことだけは理解した」
「では、お願いする!」
「イデアベルクに戻る……ってことでいいんだろう?」
「よろしく頼む」
フィーサのことと、ここから先のエリアのことが気になる。
しかしウルティモの取引を受けた以上、イデアベルクへ戻るしか無さそうだ。
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